からむこらむ
〜その100:白く輝くもの〜


まず最初に......

 こんにちは。寒い日が続きますね........北は大雪、関東も初雪ですか。
 急に風邪引きさんが多くなってきたようですね。皆さんもくれぐれもお気を付けを。

 さて、今回はいよいよ100回目ですか。これも皆さんに支えられたおかげだと思っています。ありがとうございますm(_ _)m
 で、内容は......特別なものは特に無いので、いつもの通りにしようかと(^^;; まぁ、色々とネタもあるのですが、比較的楽させてもらいます。ま、ある元素の話にしようかと思います。
 それでは「白く輝くもの」の始まり始まり...........



 さて.......これから話す元素は昔から良く知られ、そして様々なイメージで語られる元素でした。

 古今東西問わず良く知られたこの元素。名前は「輝くもの」を意味する言葉で、紀元前より各地で知られていた物です。価値としては金よりも高価だったこともあり、金の倍から、時代と場所によっては10倍もの価値を持っていた、と言われています。また、いわゆる「魔除け」の効果があるとも信じられており、それも兼ねてか装飾品としてもよく使用されていました。また、「毒に会えば色が変わって持ち主に知らせる」と言うことでこの食器は金持ちに愛好されたと言われています。
 イメージには面白いものがあり、各地で「月」のイメージが共通しています。「水」とも考えられていますが、古代エジプトでは「四大」のうちの「風」を象徴し、神話によれば神の身体の骨はこれで出来ていました。
 そして、貨幣としても非常によく使われていました。

 .......さて、これは何でしょうか?
 まぁ、わかる方はわかるでしょうけどね。どの時点でわかったか、と言うのも調べると面白い何も知れませんけど...........
 その元素は「銀」として知られているもの、となります。

 この「銀」という物。古今東西でよく知られている物でして、金、銅に続いて発見された元素と言われています。そして、色々な意味から「重要視される」ものでした。
 銀は財宝、装飾品、食器としては昔より非常によく使われていまして、紀元前3000年頃にはメソポタミア、エジプトで銀製の装飾品が見つかっています。特にメソポタミアでは金よりも貴重とされていまして、バビロニアの名高きハンムラビ王(前18世紀頃?)の頃には蓄蔵と支払いに使用されていたと言われています。
 この金よりも貴重・高価、というのは意外かも知れませんが事実でして、「銀メッキした金」なんてものが見つかったこともあるそうです。レートは時代と場所によってまちまちなのですが、概ね古代では銀の価値は金の2〜10倍ぐらいとなっていました。これは、新大陸の発見による金の大量流入まで続きます(少なくとも「貨幣としての金貨」が流通出来る量になるまで)。
 また、歴史的に見て、「貨幣価値をもった」物として重要であった銀は、上記のような紀元前の頃より近代まで主流を占めていまして、旧約聖書にはカナン(いわゆる「約束の地」)を訪れたアブラハムは銀で支払いをしていた、という記述があるようです。ま、いわゆる「貨幣」=「コイン」という扱いになるのは紀元前700年頃、小アジアのリュディア王国で一定量のエレクトラム(銀と金の合金)を含む鋳貨が造られたのが初めとされ、後にギリシアの諸都市がこれに習ったと言われています。後に、中世初めにカール大帝による銀本位制が確立されてから20世紀初頭まで貨幣としての重要な役割を担います。
 尚、金は銀による支払い量が増えてから貨幣として本格使用(大量取引の場合には銀だとかさばるので、より価値のある金に代わる)され、後に金本位制に移行してからは銀に代わり完全に主役の座を得ることとなります。もっとも、金は金でかなり話すものがありますので、これは別の機会に、という事で。
#尚、今は管理通貨制度ですので、基本的に金本位制を採用しているところはほとんど無いです。

 ちなみに、「貨幣を扱う」と言うと現代では「銀行」がその役を担っていますが、これの語源は中国だったりします。
 唐や宋の時代(7世紀〜13世紀頃)には銀塊・銀食器といった銀製品を扱う店があったのですが、これを当時金を扱っていた「金行」に対して「銀行」と呼んでいました。しかし、やがて貨幣では銀貨が一般的に流通していましたので、これが後に金融機関としての「銀行」へと意味が変わった、と言われています。尚、中国では銀本位制で通貨単位を「両」として扱っていましたが(日清戦争の時に、清国が賠償金として支払ったのは2億両(テール)でしたし)、金本位制へ移行した際に現在の「元」へと変わっています。
 日本だと江戸時代に両替商がこの様な金融機関の役割を担っていましたが、明治に入り「銀行」へと変わっていくようです。

 さて、日本での銀について軽く触れてみますと、文献上で最初に出てくるのは『記紀』の一つである日本書紀でして、天武天皇(大化の改新で有名な、天智天皇の弟)が即位した翌年である674年に対馬島貢銀の記載が最初とされています。この対馬の銀鉱は中世まではほぼ唯一の銀鉱として採掘されます。もっとも、金の輸出は非常に多かったのですが(マルコ・ポーロにおける『東方見聞録』に記載された「ジパング」にその様子が見えますが)、銀は足りてはおらず中国より輸入していました。
 日本における銀の本格採掘は16世紀以降、いわゆる戦国時代からでして、1533年に山陰の石見銀山において新しい製錬法である「灰吹法」が編み出されてから全国に製錬法が流布します。後に1542年には但馬の国(兵庫県)の生野銀山が、そして各所で銀が採掘され初め、そして佐渡の相川鉱山において最大の銀の採掘が行われることとなります。これらから日本は銀の輸出国へと転換します。
 こうして大量に得られる様になった日本の銀は江戸時代には通貨として、そして出島での貿易で代金として使用されるのですが、17世紀中ごろからは産出量が減り、明治時代に入っても産出量が減少。最終的に1959年以降は純輸入国へと転換します。
 尚、日本での銀の使用は貨幣としては江戸時代から本格化しますが、それまでは一般には像器に使用されています。ヨーロッパほど装飾品や食器などには使われなかったようです。


 さて、歴史的なものを取りあえず扱ったところで、今度はちょと民俗的な物でも。
 銀というものは昔より色々と「高貴なもの」に扱われていましたが、ある種面白い扱いを受けているように見えます。色々と調べてみますと........
 まず、銀は高貴なものとして工芸品、貨幣として扱われましたが、貨幣の代名詞としての「銀」という意味が強く、日本では「銀子」。フランス語の「argent」(アルジャン)と言ったものがこのような意味を持っています。そして、元素としては珍しく「魔除け」としての意味があると考えられ(普通は宝石と言った化合物が多い)、装身具によく用いられました。おそらくヨーロッパでの「吸血鬼」や「狼男」などといった「もの」に「銀が有効」とされるのはこの流れと言えます。
 また、銀が意味する代表的なものに「白」というものもあります。例えば「銀世界」と言えば一面の雪の状況です。スクリーンを「銀幕」と呼ぶこともありますし、白米を「銀飯」と呼ぶこともあります。また、「銀」を「しろがね」と呼ぶことがあるのもこれを示しています。
 面白いのは中国では月にかかる言葉としての「銀」がありまして、月を「銀蟾(ぎんせん)」「銀兎(ぎんと)」「銀盤」と呼ぶ事があるそうです(前二者はヒキガエルとウサギを示し、月にそれぞれが住んでいる、という伝説に基づく)。また、月光を受けて輝くものの例に「銀波」「銀露」という表現もあります。
 その他、代表的な扱いとしては「金」との対比として各国でよく扱われているように見えます。例えば、「金」を「太陽」「男性」「火」「動」と見る傾向に対し、「銀」は「月」「女性」「水」「静」と見られることが多くあります。これは、古今東西を問わず見ることの出来る傾向のようです。
#日本でも、古神道では「火水」と書いて「かみ」と読ませ、太陽と月での対比なども見られます。
 いわゆる中世に見られる「錬金術」においても銀は重要でして、上記のような象徴的意味の他に「銀を造る作業」というものがありました。これは金を作り出す「大作業」に対して「小作業」と呼ばれていました。
 神話でもこういった金との対比が見られまして、例えばエジプト神話では神の身体は骨が銀で、肉が金で出来ていたと考えられています。また、キリスト教でも銀は神の智、言葉を示すものと扱われているそうです。ついでに、あるポーランドの女性の学者は「真理は金、信仰は銀」と表現していますが。
 そう言えば、「沈黙は金、雄弁は銀」という言葉がありますね。


 .........などと、一般的な歴史と世界でのイメージから話を始めてみました。まぁ、これがまた色々と書くだけの価値があるほど人間とは密接に繋がった元素ですので書いてみたのですが.........どうでしょうか? なかなか面白いと思うのですが。
 ま、この手の話は更に突っ込めば色々とあるのですが........歴史と民俗的意味というのは奥深いものでして、キリがないことと「科学」の話が全然出てきませんので、この話はこれくらいにしましてそろそろ科学的な話を始めるとしましょう。

 銀という元素は周期表では銀は原子番号47。元素記号は「Ag」となっていまして、原子量は107.9となっています。
 同位体は107〜111までありますが、安定同位体は107と109でして、それぞれ存在比が51.84%、48.16%となっています。他の元素は極微量でして全て放射性です。融点は961.93℃、沸点は2210℃、密度は20℃で10.50g/cm3です。
#個人的な興味ですが、「気化した金属」ってのは見てみたかったりしますが。
 特徴としては延性(棒状にして伸びる性質)、展性(平面に伸びる性質)が金に次いで大きく、大変に粘り強く柔らかい元素です。延性に関しては1gあれば1800mの長さまで伸ばすことが可能です。展性では0.0015mmという極めて薄い銀箔を作ることが出来ます.......ここまで行けば、ほとんど透けて見えるのでしょうが。また、耐酸化性が高く、そして室内における電気伝導率・熱伝導率が最大の元素(電気抵抗率1.59×10-6Ω、熱伝導率427W/m・K)でして、光の反射率も非常に高い(赤外領域では98%の反射率)ことから工業的に非常に重要な役割を果たしています。ただし、銀を利用する際に純銀では柔らかすぎるため、合金として使用するのが一般的です。
 おもな利用法は次回に回しますが、接点やメッキ、電極、写真、鏡、装飾品、楽器、医薬などに用いられています。
 尚、銀は毒性があることも知られています。

 銀の「Ag」の由来はラテン語の「argentum」でして、「輝く」「明るい」という意味があります。この言葉はギリシア語の「argos」がその由来となっています。これから推測できるように、先ほども書いたフランス語の「argent」はラテン語由来になります。英語では「silver」、ドイツ語では「silber」ですが、これの由来は古代オリエント、南メソポタミアの北部地方に帝国を築いたアッカド人の言語であるアッカド語(楔形文字で書かれた言語らしい)で銀を意味する「sarpu」が由来とされています。
 日本では「五色の金(かね)」(五色=一般に赤・青・黄・白・黒)の一つとして「しろがね(白金)」と最初は呼んでいたようです。

 さて、銀は一般には自然銀として産出することはあまりなく、一般には硫化鉱物である輝銀鉱Ag2Sなどの硫化物で多く産出することが知られています。「錆びやすい」金属ですが、一般には酸素との反応には乏しく、酸素では錆びません。これは、銀を酸素中で燃やしても変化がない事でわかります。しかし、硫化水素または硫黄などとは容易に反応しますので、一般に「錆びた」というのはこのケースとなります(よって、排ガスが多い場所では保管に向かない)。また、酸素は酸素でもオゾン(O3)とは反応します。
 また、鉛、銅、亜鉛などの硫化鉱石中に微量存在し、製錬の副産物として回収されています。また、自然金に多く含まれており、その含有量は概ね10%以上と言われています。もっとも、「自然銀に金が10%以上含まれている」という逆のケースはなく、また「砂金」に対する「砂銀」は存在しません。金と銀の合金は一般に「エレクトラム」と呼ばれています(錆びやすいです)。

 銀の製錬法はいくつかありまして、現在では水銀との合金にするアマルガム法、青酸化合物にして製錬する青化法など様々ですが、他の金属の電解精練時に得ることが多いようです。もっとも、現在ではリサイクルで再利用、というケースも多いですが。また、精製法は電解法が一般的となっています。
 尚、昔の日本での銀の製錬は「灰吹法」と呼ばれる方法が一般的でした。これは、鉱石に鉛(鉛鉱石)を加えて一緒に溶解し、鉛に銀を含ませた「貴鉛(きえん、きなまり)」にし、これを灰床で炭火で加熱すると鉛分は酸化されて酸化鉛と化して床の灰にしみ込み、残った銀が床の中央に残る(円形の薄い板状になる)ので、これを灰吹銀として得ます。
 この方法は、江戸時代などの史料などでは絵としても残っていたりします。
 もっとも、個人的には酸化鉛のしみ込んだ灰の処理とかが結構気になったりもするのですが...........(その63その64その65参照)
 ただ、この方法を考えれば人間が銀を知った最初の機会、と言うものが想像できます。例えば、銀鉱石などがある山などで山火事が起きたときに「天然の灰吹」となった結果として火事の跡に銀がでたら........? ま、こういう説もあったりしましてなかなか興味深いものであったりもするのですが。

 さて、取りあえずは銀の歴史・イメージ・性質について今回は語りましたが........ま、色々な利用法は次回に回すとしまして、最後に少しだけ自然銀の話をして今回は終わることとしましょう。

 自然銀としては余り取れないと書きましたが、全く取れないわけではありません。が、まず大量に「どか」っとまとめて取れるものでないのは確かでして、ひげ状や樹枝状の物が一般に多いとされています........が、中には「例外」として大量に発見された銀の話もありまして、これに凄い話が一個あります。
 モロッコにイミテル鉱山という所があります。ここである日の事。地下の坑道のトンネルを掘っていくと何かにぶつかって採掘機が動かなくなりました。「はて?」と坑夫が調べると........坑道に立ちふさがったものはなんと自然銀の巨大な壁。厚さ数センチにも渡るこの巨大な壁.........先ほども書いたように、銀は非常に粘り強い金属ですので、ドリル程度では歯が立たない.........
 で、彼らはどうしたか?
 「よし、銀だから儲けるぞ!」........と少しは思ったかも知れませんが、実際には「このままでは作業に支障が出る」、と考えた彼らは発破を仕掛けて吹っ飛ばしてしまったそうです。
 う〜ん.......極めて勿体ない.........
 もっとも、現在ではここは銀の産出地としても色々と掘っているらしいのですが。


 ま、そう言うことで長くなりました。
 次回に工業的な利用法や、「毒を探知」する話、その他諸々を扱うことにしましょう。

 今回は以上、と言うことで.......




 はい、終わり、と。

 さて、今年最初の「からこら」は如何だったでしょうか?
 今回は「銀」について、簡単に歴史・イメージ、性質などについて触れてみましたけど..........どうですかね? ま、本当は一回で全部終わらせようと思ったのですが、古くから人類が付き合っている元素ですので、色々と話が多いので分けてみました。
 まぁ、本当に利用が多い元素でして........なかなか面白かったりします。ま、歴史・エピソードは突っ込むとまだ色々とありますので、興味のある方は調べてみるとよいかも知れませんね。

 さて、次回には色々と利用法についての話をしてみたいと思います........ま、これが結構色々と面白かったりするんですけどね。
 お楽しみに............
 って、次回は2周年記念ですね、「からむこらむ」の(爆) まぁ、続いたものですが(^^;;

 そう言うことで、今回は以上です。
 御感想、お待ちしていますm(__)m

 次回をお楽しみに.......

(2001/01/09記述)


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