からむこらむ
〜その98:名前の雑談”命の水と黒い粉”他〜


まず最初に......

 こんにちは。本年もいよいよ1週間を切りました。皆様、如何お過ごしでしょうか?
 ま、色々と仕事や学校が一段落、という方もいらっしゃるでしょうが.........やはり大掃除で忙しいのでしょうかね?(^^; 寒い日が続くようですので、風邪にはお気を付けを。

 さて、今回は本年ラストの「からむこらむ」ですね。
 ま、テレビでは「特番」で手を抜いている様ですが、こちらも対抗して(?)手を抜かせてもらおうかと思います。まぁ、年の瀬にもなって首をひねりまくるのもどうかと思いますので。
 内容は.......「名前」についての雑談です。雑談......ま、学校の先生が「時間余ったんで」で始めるようなあぁ言う感じのをちょっくら、と思います。ちょっと個人的な実験も含めて形式が「インデックスの日記」調になりそうですが(^^;; ま、お気楽に読んで下さいませ.......って、余り身の無い話なのですが(^^;;;
 それでは「名前の雑談”命の水と黒い粉”他」の始まり始まり...........



 さて、我々の世界では、「物」という物に「名前」を付ける風習があることは皆さん御存じの通りです。色々と考えると、「それに意味を持たせる」とか様々な「重み」という物があるものですが..........
 ま、皆さんそれぞれ名前をおもちだと思いますけど.........ってありますよね? 今回はこの「名前」にちょっとこだわって雑談でも、と思います。

 ところで、最近は忘年会ラッシュで色々とありますけど.........皆さん、「命の水」はお好きでしょうか?
 ........って突然聞かれて「???」と思われる方がいらっしゃるかと思いますけど.........「命の水」って何だか御存じでしょうか? お酒が好きな方だと御存じの方もいらっしゃるかも知れませんが.........って、ある漫画の話ではないですよ? これ、お酒の一種なんです。
 何か? 実はこの解は......「ウィスキー」になります。「スコッチ」が有名な、あの「ウィスキー」です。

 ウィスキーの発明と言うものは良くわかっていないそうですが、概ね1000年ぐらいまえに発明されたものと考えられています。場所は.......「一般にスコッチというからスコットランド」ではなく、グレートブリテン島のお隣のアイルランドと言われています(つまり「アイリッシュ」がオリジナル)。蒸留酒はもっと前から存在はしていましたけどね。ウィスキーの発明者も良くわかっていませんが、「命の水」と呼ばれたのには理由がありまして、時のアイルランドの錬金術師達がこの酒をケルト語で「Uisge Beatha(ウィスゲ・バハ)」、訳すと「命の水」と呼んだことが語源となったそうです。
 ま、ウィスキーもアイルランドでは「Whiskey」とつづり、スコットランドでは「Whisky」とつづるそうで、それぞれ「別物」であり、それぞれ「アイリッシュ」、「スコッチ」と呼び分けるそうですが.........と、この話は延々と長くなりそうですので取りあえず切りましょう。

 さて、これを読まれる方の中には「命の水」は「ウィスキー」に限定せず「お酒全般」と言う方もいらっしゃるかと思いますが..........では、こう言った「お酒」。この「お酒」という物の成分の「主役」と言えば何か? と言うと御存じ「アルコール」となります。
 実は「アルコール」という言葉。一般の方にはいわゆる酒の成分である「酒精」こと「エタノール」というを指しますが、化学屋さんに取っては「アルコール」と言うと非常に多種多岐に渡る化合物群を指しています。ま、「目を潰す」ので有名な「メタノール」という物はそうですし、殺菌にも使われる「フェノール」と言うのもアルコールの一種に。「グリセリン」と言うのもアルコールの仲間です。他にも本当に莫大な数がありまして、数を挙げるのも無理なぐらい存在しています。
 ま、そう言う意味ではこの「アルコール」という言葉は幅広い意味を持つのですが............
 さて、この「アルコール」。英語では「alcohol」と書きますが、この語源を御存じの方は余りいらっしゃらないでしょう。何だと思いますか? 実はもともとはこう言った一般に言われる「酒」を指すものではありませんでした。もちろん、化学屋さんの言う「アルコール」でもありませんでした。
 この言葉、実は複合語でして冒頭の「al-」は定冠詞を意味するアラビア語となっています。つまり、英語で言う「the」という物が「al-」という事になります。残りの部分は何かと言いますと、もともとは「kuhl」と書きまして.........これはアラビア語で「微粉末」を意味するものでした。
 ......つまり? 今で言う「酒」という様な「液体」とはほど遠いものだったりします。
 では語源は一体何なのか? これは古代エジプト時代に使われていたある種の黒色粉末の顔料(おそらく、英語で「kohl」で出てくる、エジプトやアラビアの婦人が使用した化粧用の粉である「コール墨」と同じものだと思いますが............)がありまして、これを「アルコール」と呼んでいたのが元となっています。しかし、これでは全然「酒」とは縁がない........ですが、この「アルコール」を作るのに昇華法という方法が用いられていまして、これが転じて「酒を蒸留して得られるもの」を指すようになった、と言われています。でも、これも今で言う「アルコール」ではありませんが。
 紆余曲折の末に、現在の意味での「アルコール」は19世紀以降になってから、と言われています。
#こう見ると「言葉は生き物」という例えはぴったりですが.........

 さて、こう言った「酒」を作るときなどに行う「蒸留」という操作。実は歴史的に見ると当時の錬金術師達が深く関与していました。アイルランドの事例然り、なのですが。
 ま、これも当然でして、彼らは色々と「理論を立てて実験」(もちろん「正しい」とは限らない)する訳ですけど、その実験の作業の一つとして、よく「蒸留(「レトルト」という)」という方法を用いていたことが知られています。器具も自分で作ったと言われていまして、「何でも自分でやっていた」という側面があるようですが......... ま、それはともかくこう言った器具を使って「こっそり蒸留して酒造り」に励んでいた様です。何故「こっそり」か? それは簡単......彼らは秘密主義的傾向があったことから、「密かな楽しみ」としてやっていた事。そして、何よりも高い税金がかかるから、ですが(笑)
 つまり、文字通りの「密造酒」だったんです(笑)
#深く考えると、ヨーロッパに蒸留酒が多い理由の一端とも言えますが。
#日本で蒸留酒が多くない理由としては、非常に高濃度のアルコールを発酵で作る菌がいた、と言う事が理由になるのかも知れません(その12参照)
 っと、そっちはともかく.......「錬金術」。「ある意味において」化学の前身なのですが(あくまでも「ある意味において」です)、この「錬金術」という言葉。英語で「alchemy」と書くのですが、この語源もなかなか面白かったりします。
 「al-」はアラビア語の定冠詞であることはアルコールと同じなのですが、残りの部分は何か、と言うと.........実は「Khem」といいまして、これは「黒い土地」という意味でした。この土地は何を意味するか? これは中世ヨーロッパの錬金術師達が「錬金術の発祥の地」と考えていた、古代エジプトを指す言葉と言われています。もっとも、実際には世界各地で「錬金術」の如きものは存在していたのですが。
 一応、「alchemy」という言葉そのものには「金」という意味は含まれていない、と言えます。ま、「錬金術」と日本では言われていますが、実際にはそう言う意味のみにならず別の側面を強く持っていたのですが.........
 そうそう。余談ですが16世紀の有名な医者にして錬金術師(?)にテオフラストゥス・ボンバストゥス・フォン・ホーエンハイム、通称「パラケルスス」という人物がいますが、これは古代ギリシアの哲学者「ケルスス」を「越える者」という意味だったりします。とは言っても、最近の文学やら漫画やらで扱われるような「立派な」人物ではなく、実際には「かなりうさんくさい目で見られた」人物だったようですが.........
#かなり医療に貢献したのは確かなんですけど.........

 え〜......「alcohol」に「alchemy」と続きますが、冒頭に「al-」が付く「繋がり」をもう一個突っついてみましょう。
 この言葉を冠するもののなかで、比較的身近なものに「アルカリ」という言葉があります。英語では「alkali」と書くのですが、これはどういうもともと意味か御存じでしょうか?
 語源はやはりアラビア語でして、「al qali」と言われています。「qali」と言うのは草木灰を意味していまして、草木の灰がアルカリ性になる、という事が知られていました。ここから「アルカリ」という言葉が生まれています。
 尚、ちょくちょく植物など(動物などからもあるのですが)から得られる、窒素を含む薬や毒になるような化合物の一群を「アルカロイド」というのですが、これも「アルカリ」と関連があります。「アルカロイド」は「alkaloid」と書くのですが、これは「alkali」に「〜の様なもの」を意味する「-oid」という言葉をくっつけた言葉となっています。一応、「類縁化合物」という意味で使っていますが。
 この「-oid」という形式。他にもたくさんありまして、例えばその91などで触れたビタミンAを生みだす「βカロチン」などは「カロチン(carotin)」の仲間ですので、似たような化合物(類縁化合物)を「カロテノイド(calotinoid)」と呼んでいる事は書いた通りです。
 こう言った言葉は注意してみると色々と見ることが出来ます。
#CMで成分を言うときに結構出てきます。

 さて、折角「qali」の話をしたのでこっちにも触れてみますか。
 元素周期表を見ると、原子番号19の元素に「K」という物があります。これ、「カリウム」と言うのですがこれの語源、実は上記の「quali」に関連している言葉となっています。語源は一緒でして、ドイツ語読みで「カリウム」と呼んでいます。が、しかし英語では「カリウム」を探しても見つかりません。これは当然でして英語では「potassium」と書くからです。発音は「ポタジウム」となります.......ポタージュじゃないです。
 では、この「potassium」。語源は何かと言うと.......実は全く一緒でして、草木灰を意味する「potash」が由来となっています。もっとも、この「potash」は更に「pot + ash」......つまり「壺」と「灰」を意味するものでした。これは、草木を焼いた灰を壺に入れる、という事から由来しているらしいのですが........なかなか複雑と言えます。

 元素について触れたので、そっちの話に軽く移しましょう。
 ま、元素と言っても110以上も存在していまして、それぞれ語源が色々と存在しているのですが..........面白いのは「神話」を由来とする元素がいくつかあったりします。知識を持っていれば、意外と「何となくわかる」と言うものもいくつかみられると思います。
 例えばどういう元素があるか?
 元素周期表を見ると、原子番号22に「Ti」という元素があります。一般に「チタン」と呼ばれるこの元素、英語で書くと「titan」となりまして、ギリシア神話で出てくる巨人の一人となっています。ま、どういう巨人かというと、ギリシア神話のかなり最初の方に出てくるものでして、天空の神ウラノスと大地の神ガイアを父母とする巨人なのですが(クロノスの腹違いの兄弟)、オリンポスの神々との戦いに敗れて地底の冥界に閉じこめられます。ま、これが鉱石中に、と言うことでドイツのクラップロートによって発見されて「チタン」と名付けられたという経緯があります。

 他にも色々とありまして.........タイタンのお隣にいる原子番号23、「V」。バナジウム(Vanadium)という元素。これは北欧神話に出てくる美の女神バナジスに由来しています。その82で触れた原子番号81の元素「Tl」ことタリウム(Thallium)は炎色反応で緑色を出すことで「新緑の若々しい小枝」を意味するthallosに因んでいるのですが、このthallosはギリシア神話の主神ゼウス(実は結構困ったさんなんですけど)の娘タレイア(アポロンの嫁さんでもある)に由来しています。また、その16でも触れた、最初「元素周期表」に現れなかった元素の内の一つで原子番号61、元素記号「Pm」の元素「プロメチウム」は、ギリシア神話でゼウスの命に逆らって人間に火を与えた神「プロメテウス」に由来しています。
#で、プロメテウスの話の後に、ゼウスが火を得た人間への「罰」として「パンドラ」を作りだし、彼の有名な話へと繋がる訳ですが..........

 また原子番号73、元素記号「Ta」、「タンタル」という元素もギリシア神話に関与します。これはゼウスの息子タンタロスに由来しているのですが、このタンタロス、いわゆる「不良」でして、神々を騙したりしていました。揚げ句、自分の息子ペロプスを殺してその肉をゼウスに食べさせようとしたところでゼウスの怒りを買います(当然と言えば当然)。で、与えられた罰は、冥界において首まで水が漬かるように立たせます。そして、上には美味そうな林檎が垂れ下がるのですが........タンタロスがうつむいての水を飲もうとすると水は逃げてしまい、垂れ下がった林檎を採ろうとすると林檎は遠ざかってしまう、という罰を受けて苦しむこととなります。
 尚、このタンタロスの娘ニオベも元素の名を冠していまして、原子番号41、元素記号「Nb」、「ニオブ」という元素の由来になっています。
#余談ですが、「タンタロス」は神の名前なのですが、似た名前に「タルタロス」というのがあります。これは端的に言えば冥界(=地獄)を指しています。

 ま、他にもあるのですが、最後に北欧神話から一つ出すとすると.........ここまで来ると放射性になりますけど、原子番号90。元素記号「Th」、「トリウム(thorium)」という元素があります。これは北欧神話の軍神にして雷神「トール(Thor)」が由来となっています(または「ソア」とも呼ぶこともあるようですが)。
#どうでも良い余談ですが、『銀河英雄伝説』のイゼルローン要塞(でしたか?)の「トールハンマー」はコイツが由来です。
#トールの武器が「大鎚」であるといえば納得できますかね?

 では、「神」の名の付いた元素をいくつか挙げてみましたけど.........ついでに、民間伝承から名前を冠した元素もあります。
 例えば、元素番号27、「Co」、「コバルト」という元素があります。これは、ドイツのザクセン地方の民話に基づくものでして、色々とおとぎ話に出てくる山の精「コボルト(Kobold)」より由来します(イングランドの「ゴブリン」、パラケルススの唱えた四大精霊である「ノーム」と通じるようですが)。これは、彼の地の坑夫達が得た鉱石を「銀鉱石」と思って喜んだら、実はよく似た鉱石というだけで銀ではなかった........これはきっと山の精であるコボルトの仕業に違いない、という事からこの「偽物」をコボルトと呼んだことに由来します。
 で、このコボルトの隣にいるのが、原子番号28、「Ni」、「ニッケル」という物。これは語源を「銅の悪魔」、ドイツ語で「Kupfernickel」に由来しています。これは、昔はニッケル鉱石に銅が含まれると考えられていまして、ここから銅を洗練しようと冶金師達が懸命に挑戦した結果、当然のことながら銅が得られなかった。で、彼らが考えたのは「山の悪霊であるニックのせいだ」、と言うことで鉱石を上記のドイツ語で呼んだことがきっかけとなっています。

 ま、身近にそう言った「存在」がいたころ故の、と言うことになりますね............

 ついでに、「神」に対して「悪魔」の名を冠した物も化学の世界にはありまして..........
 こちらは元素ではないのですが、堕天使(=「悪魔」も意味します)として有名な「ルシフェル(Lucifer)」の名を冠した物質「ルシフェリン」と、それに関与する酵素「ルシフェラーゼ」という物があります。これは人によっては見たことのあると思われる物でして..........
 ま、深海生物や蛍という物は「生物発光」という、いわゆる「自分の身体を光らせる」事をしますが(とは言っても、深海生物と蛍ではその意義は全然違う)、この生物発光を研究した結果、出てきたのが上記の化合物と酵素でした。
 詳しい説明は省きますけど、ルシフェリンはルシフェラーゼの存在で化学反応を起こし、発光することが知られています。この時に出てくる光は「熱を持たない」という事が知られています........ま、蛍を見たことのある人は何となくイメージがわくかと思いますが。
 それゆえか、「人の魂が云々」という民間伝承も蛍にはありますけどね...........


 っとなんか後先考えずに書いたら大分書いてしまいました。
 ま、雑談、と言うことで.........余り「科学」していない余談として楽しんで下されば十分です。

 では、まだまだたくさん書ける話はあるのですが、他は別の機会に、と言うことで.......
 今回は以上、と言うことにしましょう。



※:学生さん向けの「おまけ」
 名前に関して、学生さん向けのおまけを一つ。少し自信のある方でも可能ですが.........ま、考えてみて下さい。



 さて、上記の化合物は「イソプロピルアルコール」ですが(もう一個ありますけどね)、IUPACの命名法に基づいて考えると、比較的良く使われる「イソプロパノール」という表現は実は正しくありません。
 何故でしょうか? 場合によっては(勉強していれば)高校生が答えることも不可能ではありません。
 解答は「からこら」では書きません。どうしても、と言う場合はメールでどうぞ。

#尚、メールを出す際は、ハンドルでも本名でも問いませんから、必ず「名前を名乗って」下さい
#名前を名乗らない手紙は失礼ですし、名前を書かない答案は評価対象外というのが常識ですから。




 はい、終わり。

 さて、今年最後の「からこら」は如何だったでしょうか?
 今回は与太話......と言うよりも「雑談」です。特徴よりも「名前」に焦点を当ててみたのですが........ま、「科学」に関係しますが、その色を薄めてみたら。また、ちょっと「インデックスの日記風」でやってみたらどうなるか、という実験的なものがあるのですが........どうでしたかね? ま、かたっ苦しく読まずに、「雑学」程度で読んで下さい。
 ま、本当に「余談雑談」をやってみたかったのでこれを機にやってみたんですけどね.........
 御感想、お待ちしていますm(_ _)m

 さて、次回は........新年ですね。1/2になりますか.........って、やる予定ですよ、えぇ(笑) どうせ暇ですし(^^;
 ま......今回のリアクションを見てどうしようか、と思います。一応、前回の年末年始の時のようにするか、とかも考えているのですが........えぇ、新年から難しいのをやる気はないです(^^;;
 とは言っても、学生さん向けにおまけでもまた用意しようかとか思っていますけど(笑)
 まぁ、何かやろうと思います。

 そう言うことで、今回は以上です。
 御感想、お待ちしていますm(__)m

 次回をお楽しみに。
 皆様、よい年をお迎え下さい...........

(2000/12/26記述)


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