からむこらむ
〜その40:『買ってはいけない』検証(6)〜


まず最初に......

 こんにちは。いきなり布団の魔力が強力になってきました。皆様、無事に魔力に打ち勝っていらっしゃるでしょうか(爆) ちなみに私は今..........37度.........?(爆滅)
#やべ......(~_~;;

 さて、今回からは今までの食品関係に続いて、予告通りもう一種類の「農薬」の部分に触れてみたいと思います。
 ま、見れば分かるんですけど、食品と農薬では視点が違う部分があります............でも、基本フォーマットは同じですので結局は.........(^^;
 それでは「『買ってはいけない』検証(6)」の始まり始まり...........



 さてさて。そういうわけで今回は農薬編です。 一応、管理人の専門の部類に入るのですが..............
 何度も確認という事ですが、「その35」、「その36」(そして「その1」、「その2」)を読んでいただいた事を前提の上でこの文章を公開しています。

 そうそう。農薬と言うものは、実際には「その特性」、「使用方法」で極めて大きくその問題が変わってきます。 例えば「経口で毒性が云々」とは言われても、実際には使用時において経口で「飲む」という事はそれほど大きくないです(農場での使用の際にはマスクなどで防いだりしますし)。そういう事よりも、皮膚からの浸透性や、呼気からの侵入などといった点を考慮する必要があります。また「気体」「液体」「固体」でも大きく変わってきます。更にその農薬の「作用」も考慮しなければなりません(光合成の阻害剤があった場合、動物において「光合成を阻害」しますか?)。また、その特性に際して「いつの時期にどれだけ、どのような形態で使用するか」などが出てきますので、安易に「経口での毒性」のみを鵜呑みにしても意味はありません。
 そう言った点は留意して下さい。
#というか、そういうことを考えていない「農薬批判」は100%無意味です.......この本の著者ですけど(爆)

 ま、細かい補足は文章中で、本格的な物は別の機会に書いていこうとは思っています。
#専門分野なんで、「農薬だけ」でやりたいんですよ(^^;;


ピレスロイド殺虫剤

 結構有名で良く使われる家庭用殺虫剤の成分でしょうか。
 『買ってはいけない』の中では「アレスリン」「ペルメトリン」が扱われているでしょうか。 本の中では「神経毒」とかかれ、また「ペルメトリン」においては「ピレスロイドの中で最も毒性の強いものだ」と書かれています。
 さて、検討してみましょうか。

 ピレスロイド殺虫剤は、戦前、日本が世界で最も生産をしていた除虫菊の有効殺虫成分である「ピレスリン(ピレトリン)」をベースとした殺虫剤です。歴史的経緯では、日米関係の悪化に伴って、日本から除虫菊を輸入していたアメリカが合成農薬の開発・使用(DDTとか)に踏みきるという話が出てきます(もっとも、DDTそのものはもっと前からあった)。 現在、除虫菊の生産はケニア・タンザニアが主要生産国となっています。 合成ピレスロイド系殺虫剤の生産は日本・イギリスです。 ちなみに、構造解明は日本人が大きな寄与をしている物質であったりします。 また、日本では、一般に衛生害虫の駆除用としてよく使われるでしょうか。
 ちなみに、除虫菊に入っている有効な殺虫成分は詳しく書くと「ピレスリンI、II」「シネリンI、II」「ジャスモンI、II」です。が、量はピレスリンI、IIが最も多く、またピレスリンIが最も殺虫力が高いことが知られています。 以下にピレスリンIの構造を示します。


 実際には、これに+αして立体構造がおそろしく絡んでくるんですが、面倒なので省略します(立体配座の問題だけで5カ所(^^;;)。 また、上記ピレスリンIの構造に赤いところがありますが、他のシネリンやジャスモン等は赤い部分の構造が違う様になっています。

 さて、天然のピレスリン(上記物質の総体として)ですが、これは非常に殺虫成分が高い割には温血動物に対して非常に毒性が低いという事が知られています。LD50が1500mg/kg(動物不祥。おそらくラット経口か)となっています。水に比較的容易に反応して分解、無毒化し、また光によって分解されます。経口で殺すのは非常に難しい物質です(^^;; ただし、動物に対する皮下注射でもほとんど毒性は低いのですが、静脈注射でLD50が6〜8mgとなる事が知られています。 これはピレスロイドが温血動物では作用点に移行する前にあっさりと分解されてしまうことを示すと考えられています。ただし、魚毒性が高い事が知られています。
 作用点ですが、具体的には不明です。が、現在のところ神経の軸索(神経の「信号が流れるところ」)に作用すると考えられています。 ちなみに、DDTも同じと考えられています。
 ちなみに、ピレスリンはレイチェル・カーソンの「沈黙の春」にも出てくる物質で、その残留性の小ささから「理想的」とされています。
 さて.......上記の様に温血動物に対する毒性が小さい為に非常に使いやすい..........と思われるでしょうが難点があります。つまり「残留性が低い」という事は裏を返せば「すぐに効果が無くなってしまう」という事です。 つまり、使う側としては「もうちょっと壊れにくい方が良い」...........という部分が出てきます。これに対して出てきたのが「合成ピレスロイド」.........ピレスリンを元に構造を「改良」という事になります。

 合成ピレスロイドですが、これはピレスリンの構造を部分部分変えていく(修飾する)ことによって出てきたものです。これは非常に種類があるのですが取りあえず本の中にも出てくるアレスリンとペルメトリンの構造を以下に示します(省略して書きます。その21の「お絵描き講座」参照)。


 アレスリンは、ピレトリンIの右側の末端構造をちょっと変えただけです。ペルメトリンは構造の左側(「第一菊酸」と呼ばれる部分なのですが)に塩素を付加し、更に右側の部分を変えたものなのですが............. 似ているでしょ?
#見る人が見れば「似ている」構造なんですけどね..........(^^;;
 アレスリンのLD50はマウス経口で640mg/kg、ラット経口で920mg/kgで若干ピレスリンよりも高いのですが、イエバエに対する殺虫能力は3.24倍になります。 ペルメトリンのLD50はマウス経口で540mg/kg、ラット経口で420mg/kgで毒性は若干高くなりますがイエバエに対する殺虫能力はピレトリンの18.2倍になっています。

 さて、以上を踏まえて本の内容を検討してみましょうか。
 以上の数値を見て「毒性が高い=やっぱり農薬は危険」と思われる方もいらっしゃるかとは思いますが..............実はちょっと盲点があります。まず、スプレーや線香状にして使用した場合.........この中に入っている成分を考えると、残念ながら人を殺せるほどの毒性は全く期待できません。 これはまず、実際にはそれほどの量は入っていないことがあげられます。仮にLD50を500mg/kgとした場合、体重60kgの人で30gが必要ですが、スプレーにしても線香にしても、100%がこのピレスロイドで占められているわけではありません(「少量で良く効く」のですから、実際は数%あるか無いか.............100%としても、蚊取り線香30g分ってどれくらいか........(^^;;)。ついでに、経験的に言いますが、農薬を原液で30gなんて絶対飲めません!!!! そして更に問題になるのは「いかにして摂取したか」という事があります。これは、スプレーにしても線香にしても経口で取るわけではありませんよね(虫殺すのにスプレーを飲む人や、蚊取り線香を食べる人、いますか?)。 一応、本の中では「空気1m3あたり0.178gを蒸散させたらラットが死んでしまった」なんて書いてありますけど、実際に使用する際に空気1m3の空間に0.178gなんて数字はかなりありえない話です(かなりの量になる..........スプレーを何本も、一回で全部使い切るとか、線香を大量(一缶分全部とか)に、いっぺんに火をつけたのならば別ですが(^^;)。また家などでは通常........特に使用される夏場などでは「なんらかの形で空気は流れている」のであるわけで.............
 また、残留性ですが、気体状になった場合(線香など)には何らかの形で部屋などから出ていってしまいますし、またその構造的特徴から比較的容易に加水分解・光分解を受けてあっさり無毒化してしまいます(合成ピレスロイドはさすがにピレスリンより分解しにくいですが)。 逆に、そういう特性から家庭用には持ってこいだったりするんですけどねぇ?(一応、農業用のもあるが、別のピレスロイドを使う)

 ま、以上の様な事を考えると、残念ながら(?)本で語られるような「猛毒的」扱いは非常に実際問題においては無意味だったりします(食品と同じ(^^;)
 実際には通常使用量で使う範囲でそんな事を気にするよりも(実際には1年中使うわけでもないですし)、食品の方が恒常的に摂取していくわけで................気にするならばそっちの方を気にしたら?って気もしないわけでも無いです(^^;
#更にはそっちでもそれほど気にする必要はないんであって.........(^^;;;

 そうそう。本の中では「ペルメトリンはピレスロイドの中でも最も毒性が高い」って書いてありますけど..............これは大うそです。まぁ、「何に対しての毒性」かはよくわからんですが、取りあえず温血動物としておきましょうか?その観点で調べますと実際には更に強いのは「ざら」にありまして...........イエバエへの殺虫力が最大(ピレスリンの1000倍)の「デカメスリン」はマウス経口でLD50が129mg/kg、他にもフェンプロパスリンというのはラット経口でLD50が49mg/kg、フルシスリネートではラット経口でLD50が67mg/kgですし............10倍ぐらい強いのがまだいくつか........(^^;;
#デカメスリンなんて一番殺虫力が高いだけ例にあげられやすいものかと思うんですけど?



 さて。ここでちょっと脱線させて頂いて語っておきますけど..........
 一部の農薬について「発ガン性」という物がこの本では語られています。そう、確かに発ガン性のある物質ってあるんですよ、農薬にも。 ただし........大体において「量」に関する記述がないのが実態です。 ではどれぐらいで「発ガン性が認められた」かというと...........ひとつ、管理人が聞いた例を挙げておきましょう。
 ある種類の農薬(カーバメート系という種類)の殺虫剤がありました。コイツがまた結構いい感じの殺虫活性を持っていて、「じゃぁラットで毒性調べてみようか」って話になったそうです。そうすると........結構な量与えても死なない..........で、最終的にエサに10000ppm(=1%)を与えたらガンが発生したことが分かったそうです。が............「ガン」という部分にのみに反応して世間様の「そのような物質を使うことは何事か!」って事でこの農薬はおじゃんになりました(爆)  実際、農薬で「経口的」なものが問題になるのは更に10000分の1って量.......つまり数ppmとか、そういう単位以下が問題になるのですが..............そう、実際にはこの農薬はかなりの(現在の物と比べても)優秀性があったのですが、非現実的な量を与えた実験データを見ておじゃんにされてしまった、という話になってしまいました。 1%の農薬...........100g中に1g? 皆さんのほとんどの方は御存じ無いと思いますが、この量ってものすごく「臭い」んです。100gの食事で1gあったら臭くて食べれません(このラットはそのエサをよくもまぁ食えたな、というのが共通した感想(^^;;) つまり、そういう量まで与えないとならないものが多かったりします。
#ちなみに、この物質は現在も「おじゃん」のまんまです(^^;;

 ついでに、環境ホルモンの部分も。
 いくつかあげられている農薬は環境ホルモンの疑いをかけられてはいますが..........その役割が(殺虫剤の場合)「神経のかく乱」という点においては確かに「環境ホルモン」となりうる可能性はあります。けど.........実際にはDDTやPCBやTCDDのような残留性は全くありえません(保証できる!)。更に体内では通常使用される範囲においては容易に分解されるのでその残留性を考えると..........「?」と管理人は思っています(他の農薬も同様)。
#そんなに残留性が高かったり、毒性が高かったりする農薬は現在使用許可は降りません!
#ま、それでも後日「新たな問題」が判明して使用禁止になるやつもあるんで、そこら辺は苦しいのですが(^^;

 さらについでに...........
 良く「菌や植物を殺すのに、人に無害なわけが無い!」っていう方がいらっしゃいます。この本もそのスタンスで書いています(記述がある)。
 確かに、この言葉はある種の事実を指し示しています。しかし.........現実にはこの言葉に反することもあります。例えば?「細胞壁」って言葉を覚えているでしょうか? 細胞を囲む「壁」でして、動物には無く植物には存在しているものです。 では........これの生成を阻害する物質があったら? そう、植物は細胞壁が作れなくってそのまま内容物が流出して死んでしまいます。しかし動物には細胞壁はありますか?そう、無いんです。 さらに、菌類は細胞壁があるのですが、相手の細胞壁を溶かしてしまう物質を作ってしまうものがあります(自分は耐性を持っている)。激しい生存競争の中、そういう手段でその菌は生き延びるわけですが........この例が彼の有名な抗生物質「ペニシリン」になります。ペニシリンが人間に効かないのはこの細胞壁が無いためです(まぁ、抗原抗体反応でペニシリンショックってのが起こることがありますけど、それは少数なので例外(^^;)。人間に細胞壁があったらこの物質は「薬」としては使用不可能です(耐性があれば違うのでしょうけど)。 こう色々と考えていくと...........植物の葉緑素を阻害するものが動物には有効ではありません。 また、神経に作用する物質が植物に有効であるという事もありません........etc,etc.............
 ........こういうものを総じて「選択性」と呼んでいます。 ま、上記のような事を書いても、量が多ければ別の方面で障害が起きることはありますし、また全く別の作用を引き起こす事があるので、簡単にはいかないのが現状なんですけどね(^^;;; それはともかく、農薬の研究においてはその「選択性」という物が非常に重要になり、またこれが使用法にも影響を与えてきます。
 ちなみに、選択性が無いものでも工夫次第でどうとでもなるんですけどね。例えば、「これから植えよう」って時の畑とかに除草剤を使用する際には選択性の無いものを使用し、栽培中に病害が発生しやすい時期とかになったら選択性のある農薬を使用する、とか。
 何事も使用法でしょうか。
#この点はいずれ「じっくり」と..........


 ま、ちょっと長く重要な脱線をしましたが(^^;;

 本道に戻しまして、結論。
 本当にこの人達は一体何調べたんでしょうね? というか、農薬に関する概念とか問題点とか、ちゃんと理解しているんでしょうか?
 ま、その手の研究に携わった事のある人間から見ればまったく分かっていないとしか言い様がないんですけどね(^^;;

 皆様、くれぐれもこのような「偏った理解」をなされないよう、よろしくお願いします(失礼、著者達は「理解していない」でしたね(^^;)。

 さて、長くなってしまいました。
 今回は以上で。次回に除草剤(含ダイオキシン)と有機リン殺虫剤であげられているヤツをやろうかと思います。




 あぁ.........止まらなくなってしまった...........

 さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか? 今回は農薬編の第一回でしたが............
 すみません、専門分野なんでついつい........(^^;; まさかピレスロイド系で終わってしまうとは思いませんでした(爆) ま、ピレスロイドは結構良く使われて活躍している物質です。身近なんでいいか、なんて思っています(^^;; あまり怖がる物質じゃありません(^^;;;
 ちょっと脱線した所なんかでも出たように、農薬は「経口での毒性がこれ、だからどうこう」というのは「参考」程度で実際にはそれが大きな問題では無いんです。残留農薬とかは関係しますけどね(^^;; 実際には様々摂取方法の可能性、自然での動態とか、本当に大変な学問であったりします。それゆえにあとから問題が出るケースもあるのは否定しませんが............. ただ、やはりレイチェル・カーソン女史の「沈黙の春」から大きく変わったのは確かです。
 最近のヤツでそれほど問題になるのはそうそう無いんですけどね..........(大体が10年、20年以上前に作られて、そして研究されていますし) 結局は使用法です。
#でも、色々と謎や課題は多いですが。

 さて、来週ですけど.........予告通り有機リン系と除草剤を触れたいんですが...........有機リン系は研究対象だったんだよなぁ..........(^^;; 一回で両者が終わるか謎ですが、頑張ってやってみたいと思います(^^;;

 御感想、お待ちしていますm(__)m

 さて、それでは今回は以上です。来週をお楽しみに..........

(1999/10/19記述)


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