からむこらむ
〜その110:人の中枢と物質〜
まず最初に......
こんにちは。相も変わらず気候変動がやたらと激しいですね。大分春らしい感じがしてきましたけど。
まぁ、花粉症で泣く人もいれば、最近の変動で身体が悲鳴を上げている人もいるようです。気を付けたいものですが.........
さて。今週も予告通り何やらごたごたしていますが。え〜、やっぱり今月いっぱい忙しいんですけどね(^^;; 4月の頭ぐらいまではなんか忙しいのですが........また、祝日とあって色々と家人の目もありまして色々と考えました。
で、今回は何をするかというと、皆さんからのリクエスト.......特に精神に関与するような薬物についてのリクエストがありまして。まぁ、いずれはと思っていたのですが、そろそろかかろうかと考えています。で、それを行う前にある程度の話はしないといけませんので、今回はそういう話になります。まぁ、「前提」という部分ですかね。ある意味当り前の部分ではあるのですが、「認識」して頂く必要がありますので。
ま、それほど難しく考えずに、と思います。
それでは「人の中枢と物質」の始まり始まり...........
「生理」「適応」「学習」「認知」「比較」「発達」「異常」「教育」「産業」「臨床」「犯罪」「環境」「宇宙」「社会」「集団」「人格」「数理」.........
さて、突然の言葉の羅列ですが.........
冒頭に並ぶこの言葉。これはある学問に関与する(その学問の頭につく)ものなのですが、どういうものか分かるでしょうか? おそらく「何となく」ピンと来る人もいるかと思いますが.........
実はこれ、「心理学」と呼ばれる学問に関した言葉となります。
さて、皆さんは「心理学」なんて言葉に興味ある方も多いかと思います。まぁ、人の精神に関する学問ですが。
実はこの学問を学ぶ際に、一番最初にやるのはどういう話か御存じでしょうか? まぁ、実際には色々なアプローチもあるかとは思うのですけどね........ただ、やったことの無い人にはピンとはこないでしょう。
では、何をやるか?
管理人の経験(教職での教育心理学ですけど)では、一番最初の講義では「脳」についてやった記憶があります。
良く考えると、実に重要かつ当然なことではあるのですがね。
ところで皆さんは「脳」と言うとどういうものと考えられているでしょうか? 色々と思うものがあるとは思いますけど。
ま、これは人によって回答が非常に多岐に渡るような気もしますし、また同時に共通性も見出せるような気がしますが........つまり、ある事実について触れていると思います。例えば、「心」の所在などは代表的ではないかと思います。そして、概ね「重要」な物である認識はあるかと思いますが........
ま、脳というのは、生体にとって「最重要」な部位なのは皆さん理解御存じの通りと思います。ま、「絶対に無いと存在できない」というか、「自分自身」がこの中にある、というか........そういう認識はあるかと思います。
さて、今回は、この「脳」について。将来的に触れる向精神薬などをやるために、そういう方面を中心に「軽く」触れておきたいと思います。
ま、ある意味当り前の部分となりますがね........一応、脳というのは「専門書でも数冊分は余裕で書ける」分野になりますので、かなり省かせていただきます。例えば、発達の原理とか学習に関して、心理学的な分野から生理的な分野からと色々と出来ますので........
本格的に興味のある方は、そういう本を、ということで........よろしくお願いします。
#いや、本当に洒落になりませんから(^^;
さて、ではまず.......「脳の役割」はどういうものがあるでしょうか?
ある意味当り前の部分でもありますので、漠然とでもイメージされるものはあるとは思います。が、実際には余りにもその役割は大きなものがありまして、その実態や本質を精密に、全てを把握している人はまずいないと思われます。実際、ある程度はわかっているものの、不明な点や複合すべき要因が多すぎまして、特にこう言ったものを研究する医者などの科学者や心理学者などはこう言った問題に対して「全て」を把握してはいないようです。
それほど複雑怪奇な物、と言えますが。
しかし、ある程度はわかっているのは確かでして.......ま、一言で言ってしまえば「人間の中枢」と言うのは確かです。特にこう言ったコラムで扱う物としては、次の三つのような物が挙げられるかと思われます。
まぁ、もちろんこれ以上にわけられますし、分類の仕方でまた変わってくるとは思いますが。しかし、大体はこう言ったわけ方でもそれほど問題はないでしょう。結構漠然としているんですけどね。
まず、「情報処理」はあらゆる意味で重要でしょうか? これは幅広く身体からの各情報(五感や、臓器などからも含め)を統合・処理し、それぞれ対処するように指令を出します。記憶や認知、判断などといった役割もこれです。極めて重要な役割であることは理解戴けると思いますが。これは、自分の意思に関わらず存在するものでもあります。
「生体のコントロール」というのもある意味当然でしょうか? まぁ、「情報処理」を受けて動かす、という部分でもあるのですが。例えば筋肉を動かす、と言うのは脳から指令を出します。もちろんこう言うのだけではなく、怪我などや外敵(細菌など)の侵入、病気状態などを受ければこれに応じるべく各器官に指令を出して対応します。こういう部分に関しては、自分の意思に関わらずこれを行います。
この二つに関しては、生体の維持に重要でして、その68で触れた生体の恒常性「ホメオスタシス」の維持に関わってきます。
そして、「精神活動」.......例えば感情や情緒と言ったものも脳で起こされるものです。これも「情報処理」を受けての物ですが。色々と説明ができますけど.......例えば、外部からの情報で「喜怒哀楽愛憎恩怨」といった感情を表したりします。これらは極めて高度なコミュニケーションを行うのに必要でして、人間はこの点が特に発達していることが知られています。
実際には、これらは全て完全な独立をしているわけではなく、極めて密接に関連していまして、単純に割り切れないものがあります。しかし、大きくわければ概ねこう言った事を脳はやっている、と言えるでしょうか。
さて、では脳はどうやってその役割を果たしていくのか?
良く言われていますので御存じとは思いますが、脳はその役割を神経の緻密なネットワークにて果たしていきます。これは、それぞれの脳神経が、様々な刺激を受けてその72で触れた神経の「手」である「樹状突起」という物を伸ばしていき、それぞれの神経細胞に「接続」していくことが知られています。この神経......脳神経は主に二つからなりまして、伝達を行う脳神経と、これを構造的に支えたり、働きの補助はするものの伝達は行わない「グリア細胞」という細胞から成っています。
生まれたときにはこの神経のネットワークは未熟ですが、急速に発達していく事が知られていまして、これが徐々に熟成させていきます。実際、赤ん坊はこのネットワークが未熟ゆえに様々な動作で不自由がありますが、発達していくことで「出来ること」が増えていき、更に緻密で精細な動作ができるようになってきます。また、知能の発達などもここら辺の神経の発達で説明をすることが出来ます。
#もちろん、神経の発達の問題だけではありませんが。
この脳における神経系はその72でも触れたように「中枢神経系」と呼ばれていまして、上述したような生体全体のコントロールや情報処理を行っていきます。ただし、脳全体が「中枢神経系」として扱われることもありますが、一応脳にすぐさま直結している......例えば、「目」などといった末梢神経も脳には存在しています。
ただし、脳内部全てが神経による伝達だけではなく、ホルモンなどの支配なども受けます。
この脳神経での神経伝達物質は現在多数知られており、少なく見積もっても数十種類はある、と言われているようです。これらはその72、その73で触れたような神経伝達を行いまして、その機構は基本的には一緒となっています。
では、どういう神経伝達物質があるか、と言いますと.......例えば上記の過去の記事でも触れたアセチルコリンも脳内で神経伝達物質の役割を担っています。また、代表的なものだとその104でも触れたカテコールアミン類も存在していますし、他にもアミノ酸であり「うま味」成分として知られるグルタミン酸などのアミノ酸類。アミノ酸が酵素によって変化した、γ-アミノ酪酸(一般に「GABA(ぎゃば)」)と言ったものや、「セロトニン」という様な伝達物質もあります。また、アミノ酸が10個前後連なったペプチドが伝達物質になったりもしています。
ここで重要なことですが、これらの伝達物質は、脳内の様々な場所で様々な役割を果たしていることが知られており、脳内の複数の場所で同じ物質が使われていることが知られています。ただし、場所が違う場合、同じ伝達物質を使っていても役割は違う様になっていまして、実際に受容体(レセプター)も同じ伝達物質と結合するにも関わらず構造が違ったりします。
そして、これらの伝達物質はそれぞれの部位でそれぞれの働きを行うと同時に、「心」の動きにも関与するものがあります。そして、そういったものがいわゆる「向精神薬」という物に関与していきます。
さて、脳というものは非常にエネルギーを消費することが知られています。
脳は柔膜、クモ膜、硬膜に包まれて頭がい骨に収められていまして、脳脊髄液という液体の中で衝撃から保護されています。脳重は新生児においては体重の約10%程度となっていまして、性差はありません。しかし、成人のそれは約2.5%でして、人種などで違いますが大体男性で1300〜1400g前後、女性で1200〜1250g前後となっています。重さとしては、20〜40歳でもっとも重くなり、50歳を越え始めると徐々に減少し始めます.......ただし、ある種の病気での影響でこの重さは左右されていることが知られています。
脳は栄養不足に際しても、成人の場合には重さはなかなか減ることは無いようでして、身体が他の臓器などを犠牲としてでも最優先で脳に栄養を送っている、と言うことは知られています。ただし、生長過程で著しく障害があると脳の重さは少なくなり、同時に障害を引き起こすことがある事も知られています。
脳は上に書いた様に極めてエネルギーを必要とすることが知られていまして、大量の酸素とグルコース(ブドウ糖:その92参照)を必要とします。1日に120lの酸素と120-130gのグルコースを消費します。この為、脳に回ってくる血液量は心臓より拍出される血量の15%に当たると言われており、脳の重さの割合からすれば大量の血液が流れている、と言うことが分かります。また、肺から摂取される酸素の約20%が脳で消費されています。脳は、これら酸素とグルコースが不足すると著しい障害を引き起こすこととなりまして、酸素不足ではまず脳の機能が真っ先にやられることが知られています。また、グルコースの不足では昏睡が起きてしまいます。つまり、脳の血流が止まると著しく危険な事態となります。
これらの栄養分などは、「血液脳関門」というフィルターを経て血液から脳内に入ることが知られています。この関門は脳を化学物質による撹乱から防ぐために必要でして、外部からの物質(薬剤含む)はこのフィルターによって阻まれます。しかし、グルコースや酸素などの物質や、ある種の物質はこの関門を通過して脳内に入ることが知られています。特に、ある種の薬剤はこの関門を通過することでその効果を発揮します。
#薬剤のデザインでは重要な部分になります。
ところで、脳が持つ「機能の分布図」を皆さん見たことはありませんか? よく脳の機能の説明に出るのですが........例えば、「イメージ」などは前頭葉という額の部分で働き、嗅覚は後頭部で、などといったあれですが。これを一般に「脳地図」とよんでいます。
さて、脳地図。どうやって作ったかというと、様々な実験や観察などから得た情報を用いています。
こう言った機能の分布を調べるきっかけとなったのは、大分前から始まっています。特に重要なことは、ある種の障害を持った患者によって調べられました。
例えば、言語を司る部位は左脳の側頭部のやや後ろ側に存在するのですが、これは1861年にブローカという人物によって「タン」という単語以外を話すことが出来ない患者の脳を解剖し、この部位が壊れていることから判明します。彼は類似の患者の脳を手に入れて調査し、同様の結果を得まして、この部位が言語に関係する部分であることを知ります。また、1935年より精神科の治療として前頭葉を切除する手術(ロボトミー)が行われていたのですが、このような手術を受けた患者の後の影響から前頭葉の役割が分かってきました。これは、前頭葉を切除すると知能や記憶に影響はないのですが、意欲や情熱、計画性が無くなり、楽天的になり、将来の思慮に欠けるようになる、という様な変化がみられ、こう言ったことからやがて前頭葉が「想像、企画、感情」の働きがあることが分かりました。
また、こういう方法でなくても1870年にヒッチとフリッチュによって、犬を実験動物としてこの脳に電極を刺して(脳その物に痛覚はありません)電気刺激を行うことで反応を見、これによって運動野という随意運動に関係する領域を発見します。このような電気刺激などから役割を判定を行うようになりました。これを発展させて、最近では人間でも脳周囲の頭蓋を取って電極を刺し、様々なパターンなどを見させて反応を見、それと脳のどの部位で変化が起きたのか、と言うようなことを調べることもあるようです。
他にも現在では脳卒中などの脳の損傷の後遺症に対して、CTスキャンなど機器の発達によって損傷部分と後遺症との関係を調べる、ということがあります。実際に、これの結果とリハビリテーションの経過などを見て脳の回復などを見る、と言うことで様々な脳の動きが報告されています。尚、右脳や左脳の機能欠如による様々な障害などもこう言ったことから判明しています。
ところで、脳地図のほかにも脳の機能.......特に脳神経の伝達物質の役割と精神活動に関係する働きを解明させた事例があります。そのきっかけの一つは人類が手にしたいくつかの「薬」でした。これは、あるときは精神分裂病の薬になり、あるときは興奮薬として、あるときは鎮静剤として、そしてあるときは睡眠薬として使われました。また、あるときは宗教儀式に使われもしました.........つまり、「心」に作用する薬がきっかけとなっています。
さて、経験的な物以外よくわからなかったこれらの「薬」。これらは科学の発展にともない次のような疑問を出してきます.......「何故、どうやって心に働くのか?」 例えば、精神分裂病患者といった心の病を持った人達に対し、ある種の薬剤はこの傾向を改善することが出来ました。有名なケシより作られる阿片は、人々を眠りに誘います。古代より知られた鬱病は、ある種の薬剤の使用でこの傾向を改善することが出来ます。そして、ある種の薬剤は幻覚を引き起こします。
では、これらの薬剤は、どうして精神分裂病に効くのか? 眠くなるのか? 鬱病を改善させるのか? 幻覚を引き起こすのか?
そのためには........「心」の在りかである場所。つまり脳において何らかの働きがあるのではないか、ということで注目されます。そして、実際に科学者達はこれに挑み、様々な実験に事例の考証、そして科学技術の発達などに支えられて研究が進みます。この結果、ある種の精神の働きと、中枢神経での特定の化学物質(=神経伝達物質など)の関与、と言うものを見出します。そして、同時にこう言ったことから逆に脳の機能、そして「心」の病気を含む現象の「一端」の解明へと繋がりを見出していきました。
このような人間の、特に「精神活動」へと作用する薬を総じて「向精神薬」と呼び、その一部は皆さんが御存じのものになります。
これらの向精神薬は、特に上述した神経伝達において関与しまして、これらの伝達を強化したり阻害することで薬効を発揮します。
例えば、カテコールアミン類の一つである神経伝達物質のドーパミン。この神経伝達物質が不足すると、パーキンソン病の様な「運動」の障害が起こることが知られています。しかし、これが多くありすぎると精神分裂病の症状を引き起こすことが知られています。ある種の向精神薬は、このカテコールアミンの不足を引き起こしてパーキンソン病様の症状を引き起こしますし、逆にこの作用の強化をするものは精神分裂病を引き起こしたりするようになります(こういうことから、ドーパミンの働きもわかったのですが)。同じくカテコールアミン類であるノルアドレナリンは精神の興奮などの働きに関与するのですが、ある種の興奮薬.......例えば覚せい剤やコカインといったものはこう言った働きを強化し、それによって「興奮」作用を引き起こします。
このほかにも、LSDといった幻覚剤やある種の鎮静剤、ハルシオンなどと言った睡眠導入剤(あくまでも「導入」)と言った薬剤もこう言った各種中枢神経系に作用させます。
これからは、このような化合物や、その仕組み。そして、病気や歴史などの関係を時折扱ってみたいと思います。
そして、機会があればこういった中枢神経や脳との絡みで、アルツハイマーなどといった病気などにも触れてみたいとも思っています。
尚、こう言った向精神薬も当然その1、その2などで扱ったような「毒」「薬」と同じでして、結局は「使い方」で全てが決まってくることは言うまでもありません。また、同時にその施用法で効果なども大きく変わってきますので、その点は注意して下さい。例えば、施用法の問題で脳関門を通過できるか出来ないかで効力の発揮が違ってくることも多々あったりします。また、脳の中でも「どの部位のレセプターに作用するか」でも大きくことなります。
また、こう言った向精神薬は中枢神経での話は有名ですが、中には末梢神経系での作用から「麻薬」から「薬」へと転用されたケースもあります。また、中枢神経でも「精神活動」のみに働くのではなく、実際には他の機能への影響を引き起こすことも知られていますので、その点も忘れてはいけません。
厳密に見ていくと、そういった部分で色々と差が出てきますので注意して下さい。
あと........繰り返しますが、色々と分かってはいるものの、脳の中身は複雑怪奇でしてあくまでもまだ「一部」しか分かっていません。この点も常にお忘れなきよう........
では、長くなりました。
今回は以上ということで............
終わり、と。
さて、今回のからこらは如何だったでしょうか?
ま、今回はご覧の通り「布石」ですね.......ちょっと駆け足でしたけど。一応、リクエストとしては「ヤク」ってのが結構ありまして(^^;; そろそろ入ろうかと思いましたのでこのような話をしてみました。余り「面白い」とは思わないかも知れませんけどね.......ただ、このような前提部分に触れなければ、そういう「ヤク」への本質的な部分の理解がまず進みませんので(^^;;
単純に「どういう症状」とかを知りたいだけならば、そこいらのサブカルチャーを漁ってもらって終わり、ですから。この点はよろしくお願いします。
後はまぁ、脳の話だけでもかなり面白いものが多いのですが、実際には書いたように極めて複雑怪奇で幅広く、だれ一人としてその実態全てを把握しているものはありませんので。ですので、こういう方面に絞ってやらせてもらいました。一からやってもよいのですが、多分今回の部分に行き着くまでに4,5回はかかりますので......(^^;; いや、生物学、生化学、生理学、神経学、心理学で目茶苦茶に関与してきますから。
ま、この点は御了承を。
さて、次回ですが、やっぱり来週も忙しいようです(爆)
しかし、まぁ.......そうですね。向精神薬の依存と耐性などについては触れないといけませんので。色々な実験などの話と含めてやってみようかとも考えています。
どうなるか分かりませんけどね(^^;;
そう言うことで、今回は以上です。
御感想、お待ちしていますm(__)m
次回をお楽しみに.......
(2001/03/20記述)
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