からむこらむ
〜その177:ジキル博士とホームズ氏〜


まず最初に......

 こんにちは。今日から10月となりますが、皆様如何お過ごしでしょうか?
 気がつけば1年もあと1/4となりました。あっという間ですけどね........いや、本当にあっという間です。

 さて、今回のお話ですが。
 今まで3回にわたって興奮薬としてのコカインと覚せい剤について、歴史や構造などを中心に触れてきました。が、今まで機構については一切触れていません。それは、両者には基本的に共通するものがあるから、となっています。
 今回は、この点について触れていくことにしましょう。
 それでは「ジキル博士とホームズ氏」の始まり始まり...........



 まず、今回の話をする前にその151〜154で触れた統合失調症(精神分裂病)及び156〜159で触れた躁鬱病の知識が必須となります。ある程度読んでいることが大前提ですので、その点はご注意を。特に、伝達物質3種と病気の関連、そして伝達機構については必要です。まぁ、一度読んでいる人は、補助ページが役立つかも知れません。
 また、麻薬・向精神薬関係の話ですのでその110その111といった、乱用や依存のメカニズムも大前提です。
 ........OKですかね? では、始めましょう。



 さて、この3回で触れたコカインや覚せい剤は「興奮薬」としてくくりました。
 これにはちゃんとした理由があります。今まで触れたものを考えましょう。コカはインディオにどういった効果をもたらしたのか? 覚せい剤は学生や兵士、あるいは動員された人にどういった効果をもたらしたのか?
 今までの分を簡単にまとめると、以下のようになります。

コカイン覚せい剤
共通する作用疲労を忘れる 食欲減退と空腹感の消失
多幸感 覚せい・興奮作用(精神的、肉体的)
麻酔作用局所麻酔作用をもつ麻酔作用無し
由来コカノキのコカ葉より
天然物由来
トロパンアルカロイド
麻黄の有効成分エフェドリンより
人工合成

 ご覧の通り、主な作用  つまりは興奮作用をもたらす部分が完全に共通しています。その相違は単純に言えば麻酔作用があるかないか、という程度です。
 興奮薬とはこういう効果をもたらすものでして、明らかに精神、つまり脳への影響があるわけでして、実際に中枢神経系への興奮作用があります。その興奮の結果として覚せい・興奮作用というものがあると言えます.......つまり、文字通り「向精神薬」であるということになります。
 一般に「ドラッグ」として知られているので、こういう部分はそう説明が必要とも思いませんが。

 では、何故両者はこのように作用が似ているのでしょうか?
 実はこの答えは明快でして、両者とも脳の、中枢神経系での作用が基本的に共通しているからです。つまり作用が同じだからこそ、起こる効果も同じであるということになります。
 では、脳の何がどこでどう関連しているのか?
 コカインと覚せい剤は、実は今までにやった神経伝達物質の話に関連しています。それは二つの神経伝達物質に関連していると考えられていまして、一つは統合失調症(精神分裂病)およびパーキンソン病に関連したドーパミン。もう一つは躁鬱病に関連したノルアドレナリン(ノルエピネフリン)です。興奮薬は、この二つのシナプス間における伝達の強化をするものと考えられています。



 さて、ではどうやって伝達を強化するのか?
 これはすべてが解明されているわけではないのですが、コカインと覚せい剤で差異があることが知られています。コカインの場合は、基本的にはその158で触れた再取り込み機構が関与していまして、コカインはこの再取り込み機構を阻害すると考えられています。つまり三環系抗うつ薬と同じような働きになります。もっとも、三環系抗うつ薬はノルアドレナリンへの作用でしたが、コカインはドーパミンにも作用します。
 一方、覚せい剤の作用方法は既存の説明のものとはやや異なる機構です。もっとも難しいものではありませんが.......つまり、どういう作用になるかというと、覚せい剤はドーパミンおよびノルアドレナリンの構造と類似しています。このためにドーパミンまたはノルアドレナリン作動性の神経末端において、「神経伝達物質のふり」をしてシナプス小胞内に取り込まれることとなります。この結果、小胞内にあった神経伝達物質は「定員オーバー」で押し出されまして、強引ながらシナプス間隙へと出ていくこととなります。
 もっとも、覚せい剤はコカインと同じく再取り込み機構の阻害もある程度すると考えられており、二つの機構があるとも言えますが。
 一応、両者の機構について簡単に図にして示しておきます(左がコカイン、右が覚せい剤)。




 コカインおよび覚せい剤の作用である再取り込み機構の阻害の説明は以前やっています。が、簡単に書くと、まず神経末端の小胞体からシナプス間隙へと伝達物質が出ます(III)。これが役割を終えると再取り込み機構によりリサイクルされるのですが、そのポンプ機構がコカインによってブロックされ、取り込まれることなくシナプス間に残留します(III)。
 一方、右側の覚せい剤の機構を説明しますと、まず神経末端に入った覚せい剤はシナプス小胞に取り込まれていきます(I)。その結果、「定員オーバー」となった神経伝達物質は小胞から追い出されて(II)シナプス間隙へと出ていきます(III)。この結果、シナプス間隙では必要以上に神経伝達物質の濃度が上昇することとなります。

 さて、ここで良く考えてみますと........まず、ノルアドレナリンの伝達が強化されるとどうなるか?
 ノルアドレナリンは躁鬱病で説明した通りでして、これの減少で鬱病になる。では、一方で強化されれば? そうなると躁病的な様相になる、というのは想像がつくかと思います。つまり、活力にあふれていまして、発想力が豊か。そして常に行動的で絶え間なく行動をする、と。
 また、一方でドーパミンが強化されるとどうなるか?
 ドーパミンはその104などで軽く触れただけで、実は詳しい説明を今までしていませんが.......ある程度の説明しておきますと、脳内でのドーパミン作動性神経は運動と言った物がありますが(これは以前書いた通り)、精神に関しては知覚や情動に独創性、そして集中力や注意、やる気などに関連し、また快楽(知的なものも)にも関連していると言われています。かなり広範囲にわたりますが、「知覚」や「心」の全般に深く関わっているといって良いでしょう。それゆえにこれが多くなれば「狂気」の様相を呈す事となり(「狂気」=「知覚・精神の情報処理の異常」とみる事が出来ます)、少なくなれば統合失調症の患者に対するレセルピンのように、パーキンソン病の症状を出すこととなります。
 つまりドーパミンの伝達が強化されれば、精神に関しては発想などの点が強化されたり、また快楽に関連しているために多幸感などを感じることとなります。

 以上を考えれば、興奮薬によって引き起こされる現象は神経伝達物質の点から裏付けられ、更にコカインと覚せい剤をひとまとめで扱える事が分かります。
 つまり、興奮剤を使うとノルアドレナリンとドーパミンの伝達が強化されて気分が高揚して活力を与え、疲労感や倦怠感をなくし、自信にあふれて陽気になり、機嫌が良くなります。空腹感も無くなり、食欲も無くなります。そして集中力の増大と単純な作業の能率などが上昇することとなります。他にも交感神経の興奮作用から散瞳、頻脈、血圧の上昇という症状も出てきます。また、セックスに強くなるという説があるのはその160で触れた様に、興奮剤としての作用によるものと言えます(使った本人だけしか役に立ちませんけど)。
#もっとも、実際では複雑な学習や慎重な判断、集中力を必要とする作業に関しては能率は低下し、実態は「頭がさえた様に見える」だけの「錯覚である」と言う話もあります。

 では、これが更に大量にあればどうなるか?
 これも良く考えてみますと.......ノルアドレナリンが必要以上にあると躁病の様相を呈してきます。一方、ドーパミンが増えると今度は統合失調症といった症状が出てくるようになります。そして、興奮薬の中毒や乱用の行き着く先は、こういった躁病的な過度の興奮と、統合失調症のような思考の分裂と幻覚の症状を呈することとなります。
 これは実際にある種の実験で確認がされています。
 例えば、鬱病の患者に興奮薬を投与するとその効果から一気にその症状が軽減することが確認されています。また、一方で軽度の統合失調症の患者に興奮薬を投与すると、一気に重度の症状になることが知られています。

 そして、更に進んで中毒・乱用に至るとどうなるか?
 まず中毒への過程を説明しますと........興奮薬の魅力の一つは、静脈注射による投与での「ラッシュ」と言われるような急激な多幸感と言われています。もっとも、この方法ではすぐに効果が出てすぐにが終わってしまう。ということで、この快感を味わうために効果が切れればすぐに投与、ということを繰り返します。そういったことからまた体が耐性をつけるため、快感を得るために量を増やしていかざるを得ない、という典型的な乱用のサイクルに陥ることとなります。特に覚せい剤、コカインとも耐性のつき方は早いと言われています。
 他にもいろいろと使い方はありますが、こういう事を繰り返して常習者となるとどうなるか?
 これは陽気で多弁な症状から、一気に「反転」して惨めさを感じ、過敏、焦燥となりまして、不眠になったり更には攻撃性も持つようになって精神不安定になります。しかも進行していくとせん妄状態や錯乱状態となり、更には幻覚や妄想に捕らわれるようになります(錯乱状態で訳の分からない事を言いながら、人に襲いかかる中毒者の話をニュースで聞くのはこのため)。他にも常同行動(意味のない同じ行動)を繰り返し、これを邪魔されると怒ります(以上は統合失調症的な症状でもある)。更には食欲の減退から一様に痩せまして、このことから栄養失調気味になるのも特徴です。
 興味深いことに、興奮薬による幻覚や妄想は統合失調症による妄想型の症状と極めて類似していることが知られており、しかもそういった症状は抗分裂病薬によって軽減が可能なことが知られています。こういったことのために興奮薬の常用者が、最初は統合失調症と判断されて入院するというケースもあるようです。
 この妄想型の症状は、具体的には「自分の噂(主に悪口)をしている」「誰かが自分に命令している」「誰かが殺そうとしている」「常に追いかけられている」といった物です(そして時として凶行に及ぶ)。他にも幻覚としては「皮膚を何かがはいずり回る感覚」「体の中に砂があるような感覚」が代表的なものとして知られています。この感覚はサルの実験でも確認されていまして、コカインを投与されたサルが、常に皮膚を気にするようになったりするなどするようです。
 こういった興奮薬による精神病を「興奮薬精神病」と呼ぶことがあります。
 ちなみに、依存は精神依存で、薬の中断をしても身体的な禁断症状はあまり起きないとされます。もっとも、精神依存は強力で抜け出すのが困難です。

 ところで、上に鬱病の患者に興奮薬を投与することで改善された、と書きました。
 じゃぁ、薬として使えるじゃないか、と思う人もいるかも知れませんが、興奮薬そのままを投与すると、効果が切れた時の反動で生じる無気力感や倦怠感と同時にかなり強い鬱症状に悩まされることとなるようです。また、重症の鬱病患者では逆に症状が悪化するとも言われているようです。
 実際に使うケースもあるようですが、危険性もはらむものと思ったほうが良いでしょう。

 そうそう、こういうことも書いておきましょう。
 興奮薬は最近の研究などで神経に不可逆的(つまり回復しない)損傷を与える可能性が高いことが指摘されています。中には一度でも使えば中毒になる可能性があると示唆している報告もあるようです。他にもコカインがHIVを助長するのではないか、というネズミでの実験結果などもありまして、いろいろとデメリットが強い事が示されています。
 特に覚せい剤では一度常用をやめても、一度使えばすぐに依存状態になることが知られいます。更には非常に特徴的な「フラッシュバック」という症状が知られています。これは過去に中毒した経験者が、覚せい剤を断ったのにも関わらず酒やストレスで突然覚せい剤の投与時に生じる妄想や幻覚という精神障害が起こる症状です。これは神経系を傷つけている可能性を示唆すると同時に、一回中毒に陥ればその後に関係を断ち切ることが困難であることを示唆しています。
 神経を傷つける、というと覚せい剤の体験者の話で共通する興味深いものに、「記憶力の減退」というものがあるようです。これは、既存の記憶がどんどん「薄れていく」というもののようで、昔の記憶などがぼんやりしてうまく思い出せなくなるという様な物のようです。記憶に関する神経が覚せい剤によって傷つけられている、ともとれますが.......
 最終的に興奮薬中毒者の末路は、大体は回復不能な精神障害をきたしています。少なからず神経は破壊されていると見たほうが良いでしょう。
#類似物質(幻覚剤)も神経へ回復不能な損傷を与えるという話もあります。

 では、ここで今まで書いたものを簡単にまとめておきます。
興奮薬と神経伝達物質
ドーパミンノルアドレナリン
代表的な働き発想 思考 注意 記憶など 思考・情緒、知覚に深く関与
運動に関連
感情 やる気など
生体の恒常性維持
神経の機構再取り込み機構
過剰症統合失調症
(旧名:精神分裂病)
躁病
欠乏症パーキンソン病
(運動関連)
鬱病
(ただしセロトニンの関連も)
コカインの作用機序再取り込み機構の阻害
(シナプス間での濃度上昇)
覚醒剤の作用機序シナプス小胞に入り込んで伝達物質を押し出す。または再取り込み機構の阻害
(シナプス間での濃度上昇)
興奮薬による効果活力を与える 興奮作用 多幸感 想像・独創性の増大
集中力の増大 空腹感・食欲の消失
興奮薬による中毒症状統合失調症に酷似した妄想・幻覚の症状 不安、過敏、焦燥など精神的不安定
痩せて栄養失調気味

 興奮薬の検査は社会的に重要でして、いろいろと確立されています。
 例えば、体内で興奮薬が代謝されますと尿に排出されますし、血中にも出てきます。また、毛髪からも検出可能でして、これを調べることで比較的長期の使用の有無の確認も可能です。


 さて、多幸感を求める人間の他にも興奮薬はいろいろと使われていました。
 例えば、スポーツ選手が緊張や不安を解消するために使うケース(当然ドーピング)がありますし、また夜間労働に関連した職業で使う人もいます。あるいは、最近では前回触れた様にダイエットピルとして使うケースも知られており、これが特に問題となっています。
 まぁ、極端なやせ形を目指す女性が多いし、それをあおるマスコミもどうか、という意味にもなりますが........

 「使い方」に関し、もう少しいろいろと別な側面から書いておきますと........まず、これは管理人が大学の講義で聞いて忘れられない話なのですが。
 興奮薬は活力を与え、疲労を忘れ、空腹感を消失させると書きました。これを利用して、インカを征服したスペイン人達はコカを使ってインディオを酷使したというのも触れました。では、実際に「何も食べなくても働き続ける」効果とはどういうことか?
 これは実話だそうですが..........アンデスの山越えをして、山の反対側の町に荷物を運びたいというケースがありました。そのために運び手を雇って運ばせる、ということになるのですが、この時依頼主は運び手に片道分のコカを渡します。そして「無事時に帰ってきたら報酬をやる」という様な契約にして運び手を送り出します。
 さて、運び手はコカを使いつつ厳しいアンデスを越えて反対側の町へと荷物を運ぶのですが、ここで依頼主の「汚い手」が発揮されることとなります。つまり、コカによって疲労も空腹も感じないで運んでいくわけですが、この運び手は山越えをして目的の町につき、荷物を渡すとそのまま消息不明となります。
 何故か?
 実は、運び手は復路においてコカが切れ、そうなったところで疲労困憊の上栄養不足で死亡します。つまり、実際には「感じない」だけで確実に疲労はたまり、そしてエネルギーは消耗されている........これが興奮剤によって得られる効果の「正体」となります。
 そして依頼主は、荷物は相手に届けられて、しかも報酬を払わなくて済むという一石二鳥、と........
 .......ぞっとしますがね。
#そして、精神で肉体はどうとでも出来るという意味でもありますか。

 また、世間の事例と興奮薬を考えますと、一つ興味深い事が浮かんできます。
 ドーパミンの役割は上に書きましたが、関連してドーパミンは芸術などにも大きく関与しているようで、芸術(音楽、絵画他)に携わるような人は一般にこのドーパミンの作用は強いと言われています(学者・研究者なども強いらしい)。これはドーパミンが知覚、発想や思考、注意などを司る事を考えれば分かるでしょう。
 これを少し考えますと.......
 以前統合失調症の話でも書いたように、この病気にかかる芸術家というのも結構多いと言われています。また、興味深いことにある種の前衛芸術と統合失調症にかかった画家の絵に、ある種の共通性があるように見えるものがあります。これをふまえた上で、興奮薬で逮捕される人の中に、芸術に関連する人が多い傾向がある様に見えることを考えますと、彼らはドーパミンの増強による芸術への効果を狙っている、と見ることが出来るかもしれません。
 こういったことが芸術とドーパミンの関連をある意味裏付けている、とも言えまるのかもしれませんが.......これはなかなか興味深いものだと思います。

 こういった芸術と興奮薬の関連は昔からあるものと考えられています。
 例えば18〜19世紀にかけて活躍した詩人のコールリッジやバイロンは薬物の力を借りていたとも言われており、こういった興奮薬が候補にあるようです。また一説にはシェークスピアもコカ葉を用いていたのではないか、という話もあるようです。これは2001年に生家の周辺から出てきたパイプにコカの成分が検出されたことから言われているのですが、シェークスピアは当時の薬学事情に極めて精通していたことから、この説もあながち否定も出来ないものはあります。

 興奮薬と作家、といえばこういう話もしておきましょう。
 皆さんはロバート・L・スティーブンソンをご存知でしょうか? 代表作が『ジキル博士とハイド氏』と言えば分かるでしょう。19世紀のビクトリア朝イギリスの、どこか暗く息苦しい様子を感じる作品ですが.......この作品、世に出回っているものは実は書き直された物だそうです。
 では、一番最初に書かれたものは? 実は灰の中、となっています。
 どういうことかというと、もともと「最初」のものはスティーブンソンがコカインを使った勢いで三日三晩で作り上げたと言われています。ところが、これは妻に酷評されてしまい、彼はそれを暖炉に焼き捨ててしまいます。その悔しさか分かりませんが、次の三日三晩をかけて書き上げたのが現在の作品、だそうですが.........

 また、皆さんはシャーロック・ホームズをご存知でしょう。アーサー・C・ドイルによる探偵物の傑作ですが。このホームズ、話によれば7%のコカイン溶液を用いていた、という話があります。それがあの名探偵を作ったのかも知れませんが......ところが、学者の指摘によれば「そんな溶液を使ってあの程度の中毒症状はおかしい!」ということで、こういったことやピルトダウン原人などの事件などもあって「ドイルはやぶ医者ではないか」という説があったりしますが。
 ところでホームズの世界は、通称「シャーロッキアン」と呼ばれるマニア達によって徹底的に調べられ、論文が出されているそうです。そういった物から、現代になって「故ワトスン博士」の「著作」という形で、7%のコカイン溶液を使い続けてコカイン中毒になったホームズを治療しよう、という話が作られまして........それが"The seven-per-cent solution"(邦題『シャーロック・ホームズ氏の素敵な冒険』:扶桑社)として本になって出ています。これ、本当に7%コカイン溶液によって中毒したホームズが、元家庭教師で温和なモリアーティを「宿敵」と一方的に思い込んでしまい(コカインによる妄想)、それを治療するためにワトスンなどが動いて某有名な人物に治療させる、という話です。
 なかなか面白いものはありますので、お好きな方は是非。

 また、日本でも例がありまして、坂口安吾が覚せい剤(ゼドリン)を使っていまして、いろいろと手記が残っているようです。
 彼の手記では、ゼドリンは注射だと効果が短いので錠剤が良い、とし、更にはビタミンB1を一緒に飲めば中毒しない(俗信)とか、やせ細っていくのに一物だけは勃ち続けるのがホラーだと、色々あるようです。


 さて、長くなりましたので以上としたいですが。これが興奮薬の、コカインと覚せい剤のメカニズムについてとなります。
 ま、フタを開けると今までの物の応用、という物であると分かると思います。もっとも、実際には(このケースに限らず、向精神薬全般で)他の多数の神経伝達物質が関与しているだろうとは言われていますが。ただ、メインとなる機構であるのはおそらく確かです。
 そして、この効果が魅力ということで乱用し、そして退廃が著しいために問題になるわけですが。ただ、ある時に欧米人が南米のインディオ達に「おまえ達のせいで、コカインが問題になったんだ」と言うような非難したという話が残っています。これに対し、あるインディオは「それはあなた方が正しい使い方を知らず、自分たちで勝手に中毒者を作っているだけだ。我々は正しい使い方を知っている」と反論したとか。
 確かに現地ではあまり中毒者はいないそうですがね........これは、葉から経口でとるのと、純度の高いものを注射でとる様な使い方の差が原因、とも言えますが。同時に、確かにこういったものとのつきあい方の問題を示唆しているとも言えますが。
 結局、それをコントロールするのは心の問題でもある訳ですけどね.........

 以上、長くなりました。
 では、次回はラストとして、コカインと覚せい剤から派生した「医薬品」について触れることとしましょう。




 長くなってしまいましたが(^^;

 さて、今回の「からむこらむ」は如何だったでしょうか?
 これで興奮薬、コカインと覚せい剤のメカニズムとそれに関連する話が終わりになりますが.......ま、きっちりと今までやったことの応用だったりします。ま、リクエストされていた方もいらっしゃいましたけど、そういった方には「お待たせいたしました」ということで。同時に、待たせた意味も分かってもらえるかと思いますが。
 ま、とりあえず手は出さないほうが良い、というのは覚えておいて下さいね.........惨めですから。

 さて、そういうことで終わりですが。次回は今キャンペーンのラストとして、コカインと覚せい剤から生まれた医薬品について触れることとしましょう。
 それで、最初の頃に予告したADHDなどに関連する話をしてみたいと思います。

 そう言うことで、今回は以上です。
 御感想、お待ちしていますm(__)m

 次回をお楽しみに.......

(2002/10/01記述)


前回分      次回分

からむこらむトップへ