からむこらむ
〜その214:ドープ〜


まず最初に......

 こんにちは。お盆休みも終わりましたが、皆様如何お過ごしでしょうか?
 ま、8月も半分を過ぎました......あっという間に終わる事でしょう。

 さて、今回のお話ですが。
 ま、アテネではオリンピックも開かれている事ですので、折角と言う事で時事ネタともなる話をする事にしました。まぁ、オリンピックだけではなく、たくさんの競技大会で問題になってはいるんですがね。取りあえず、基本的な知識等を得て頂ければ、と思います。まぁ数年経てば「古い情報」になる可能性になるかもしれませんけどね。
 それでは「ドープ」の始まり始まり...........



 皆さんはスポーツの祭典は好きでしょうか?
 ちょうど現在、ギリシャのアテネではオリンピックが開催されています。4年に一度のこの祭典、スポーツ選手にとっては大きな栄誉を受けるチャンスであり、また自分の力を知るチャンスであり、そして人々に大きく影響を与える機会でもあります。
 良い試合が展開されることを望みますが。

 テレビなどで色々と語られる事がありますが、オリンピック(Olympic)の歴史は古く、その語源はオリンピア地方で行われたスポーツの祭典が由来となっています。実際には紀元前9世紀頃に行われた文化と運動の祭典であり、神々を崇める為のもので、その開催地はオリンピアの他3箇所で行われており、それらを称して四大祭典と呼ばれていたようです。
 オリンピックの開催は皆さん御存知の通り4年に1度。これは古代ギリシャ人が太陰暦を用いており、その暦から「8年周期」と言う物が一つの区切りであったようで、その半分ずつに祭典を執り行うようになったと考えられています。その競技内容は現在ほどはなく、短距離走、中距離走、長距離走といった「走る」ものや、ペンタスロン(短距離競走、幅跳び、円盤投げ、やり投げ、レスリングによる五種競技:ペンタ(penta-)は「5」を意味する接頭語)、レスリングやパンクラティオン(素手なら関節技、首締めなど可。相手が敗北を認めるまで続く)、ボクシング(グローブはないので革ひもをまく。鋲を打ち込んだものでも可)といった格闘技、そして戦車競争(騎馬戦車による競馬)といった物だったようです。もっとも、全てが明らかになってはいませんので、もう少しあるかもしれませんが、このような競技が行われていたようです。
 オリンピックはその目的から「神聖なるもの」として扱われており、その為にその間は戦争中であっても参加する義務があったため、開催中(当初1ヶ月。後に3ヶ月)は「聖なる休戦」としてポリス間で何度も行われていた争いは休戦していたと言われています。これは参加者の移動等の問題などの考慮もあったようです。
 このような祭典はかなり長い間行われたものの、しかしギリシャがローマの支配を受け、更にキリスト教を国教と定める事により393年の第293回オリンピックを最後に終わってしまう事となります。
 これが「古代オリンピック」の簡単な歴史と概要になります。
 現在行われているオリンピックは「近代オリンピック」として古代とは区別されています。その歴史はよく知られる通り、1892年にフランスのピエール・ド・クーベルタン男爵(Baron Pierre de Coubertin)がソルボンヌ講堂で行われた講演でオリンピック再興の構想を明らかにし、賛同者を集めて国際オリンピック委員会(International Olympic Committee:IOC)を設立し、1896年に第1回アテネオリンピックが開催され、これによりオリンピックが再興されることとなります。
#なお、古代と近代の間に何度か「オリンピック」が行われているようですが、一般には含まれていないようです。
 この近代オリンピックは当初は順調に開催され、1924年に冬季オリンピックが加わります。もっとも、第一次世界大戦により1916年第6回ベルリンオリンピックが中止、1936年にヒトラー政権の下で第11回ベルリンオリンピックが開催されるも、その次の1940年の第12回東京オリンピックが世界情勢により幻と化し(これにより戦後の東京オリンピックに関係者がかけた執念は相当なものだったそうですが)、1944年の第13回はロンドンと定められたものの、第二次世界大戦まっただ中(連合国によるフランス解放の頃)出来るわけも無く中止。1948年の第14回ロンドンオリンピックより再開されるなど、世界情勢によって開催が左右されました。また、その後も政治的な問題により参加国の減少や、東西のイデオロギーの対立により片方が参加しない(モスクワ、ロサンゼルス)等と言う事もありました。
 そういう意味ではここ数回に置けるIOC加盟国がほとんど参加している事は良い事なのかもしれません。

 ところで、このようなオリンピックですが20世紀の後半からある問題が起きています。
 何か? オリンピックの問題は様々に言われていますが、近年特に顕著に問題になっているのは、皆さんも聴いた事があるものです。何か、と言えばそれは「ドーピング」と言う事になります。無論オリンピックに限定したものではなく、スポーツ全般の問題と言えますが。
 そもそも基本的にスポーツの精神として存在する「フェア」と言う物に対し、ドーピングはその精神に反するものと考えられているものです。更にはあまり語られない物として「心身に悪影響を与える」と言うものがあります。しかし実際にはドーピングによる問題は後を絶たず、今回のアテネオリンピックでも開会前から既に問題となっています。そして、その内容はこの「からむこらむ」で扱うのにふさわしい物であるでしょう。。
 今回は、このドーピングについて触れておこうと思います。


 さて、「ドーピング」と言う言葉ですが。
 この言葉の語源を御存知の方はいらっしゃるでしょうか? ドーピングは英語で"doping"と書きます。由来は南アフリカの原住民であるカフィール(カフィル)族が祭りの際に「興奮性飲料」を意味する「ドープ("dop")」と言う酒を飲んで精神を高揚させていた事に由来します。このような儀式は世界各国で見られるもので、何回も触れているように儀式での精神の高揚に、様々な精神に作用する物質が含まれる植物が使われる事があります。
 もっとも、何故あえてカフィール族のドープが語源になったかは分かりませんが。ただ、こう言った事はギリシャ・ローマ時代でもそういった作用を持つ物質を服用して競技に挑んでいたようで、事実アヘンなどの話で登場しているガレノスは興奮薬などを調合して選手に与えていたと言われています。
 ところで、一般的な意味での「ドーピング」として近代以降用いられ、検査されたり問題となった最初の例は実は競馬でした。これは馬にアヘンと麻薬の混合物を与えていたようで、1889年に初めてこの言葉が辞書に登場する事となります。つまり19世紀末〜20世紀初頭における当初の「ドーピング問題」は競走馬や競争犬でして、事実最初の「科学的検査」と言う意味で最初にドーピング検査が行われたのも競馬であり、1911年に競走馬の唾液を採取して行われたようです。その後1930年には組織的に検査が行われるようになります。
 このドーピングは無論動物だけの問題ではなく、人間においても行われていました。馬と同じく近代の競技でも興奮剤アヘン等が使われ、中には1886年のボルドー〜パリ間の600km自転車レースにおいてイギリスの選手が興奮薬トリメチルの過剰摂取で死亡するなどと言う記録も残っています。オリンピックにおいても例外ではなく、特にベルリンオリンピックの頃では「国威発揚」の名分の下に相当使われたようですが........
 ただ、ドーピング問題が本格的に問題になるのは戦後です。
 その最初の契機は著名なフランスの自転車レース「ツール・ド・フランス」でして、ここでアンフェタミンの摂取による依存症となる選手が数名いる事が問題になり、更に1960年の第17回ローマオリンピックにおいては、ついに競技中にアンフェタミン投与によって自転車選手が死亡する事態が起き、一気に問題化します。
 事態を問題視したIOCは1962年にアンチドーピング決議を行い、1968年のメキシコオリンピックでドーピング検査が正式に行われるようになります。その内容は当初は興奮性のある薬剤を中心に約20種程度でしたが、その対象となる薬物・手法は増加して現在は150種以上で禁止あるいは制限のある薬物があり、更にその対象は増えている現状があります。
 ま、イタチごっこの現状はまた後述する事にしましょう。


 では、ドーピング対象となる薬物・手法にはどのようなものがあるのか?
 現実には競技によって異なるなど色々とありまして、簡単なものではありません。ただ、 WADA(世界アンチドーピング機構)やIOCなどが定める薬物・手法が一般的な物となっています。
 その内容はなかなか複雑で、全ての分類を細かくここで書くのは困難です。一応、ある程度分類するとすれば、禁止薬物は主に以下の分類が出来ます。

分類主な効果代表的薬物
興奮剤興奮作用をもたらし 闘争心・集中力などを高める
疲労感の抑制
アンフェタミン メタンフェタミン コカイン
メチルフェニデート(リタリン) ストリキニーネ
麻薬鎮痛剤痛みの除去ヘロイン ブプレノルフィン オキシコドン
ペンタゾシン ペチジ等
たんぱく質同化剤筋肉の増強などアンドロスタジエノン 4-ヒドロキシテストステロン スタノゾロール
アンドロステンジオール アンドロステンジオン テストステロンなど多数。
類似物も含む。
(尿中の特定物質の存在比で判定される)
ペプチドホルモン筋肉の増強 赤血球数の増加などエリスロポエチン ヒト成長ホルモン インスリン
コルチコトロピン類 下垂体刺激ホルモンなど
β2作用薬筋肉増強
(たんぱく質同化作用)
クレンブテロール 一定濃度以上のサルブタモールなど
(治療目的のフォルモテロール サルブタモール サルメテロール テルブタリン以外
全て禁止とされる)
利尿剤減量
禁止薬物の早期の排泄
一定濃度以上の利尿剤 エピテストステロンなど
隠ぺい剤禁止薬物の検出を阻害する多数
その他カンナビノイド類 抗エストロゲン作用薬  コルチコステロイド(副腎皮質ホルモン) 局所麻酔剤 β遮断剤など

 これらはあくまでも「主な」物と考えて頂きたいですが。薬物は更に性別によって使用禁止と言う物もありますし、競技によって制限、ある一定濃度以上の検出でドーピングと判定される等と実際はかなり細かいものであることは注意をしてください。また、上記薬物と似たような作用をもたらす物質も記載の有無に関わらず同様に禁止されます。

 では、それぞれの効果はどういうものか? 簡単に表にしてありますが、もう少し説明をしておく必要があるでしょう。
 最初の興奮剤はもっとも歴史のあるドーピングとなるでしょうか? その効果は過去の「からむこらむ」でコカイン、アンフェタミンなどの話で触れた通りでして、闘争心・集中力を高めるとともに疲労感を抑えることにあります。スポーツ競技においてはもっとも重要な要素を高める為に、過去から非常によく用いられていました。
 事実、アンフェタミンの過剰摂取で死亡している事例があったり、あるいは検出や失格となる事例はかなり多く存在しています。
 もっとも、過去に使われ過ぎたために現在では以前ほど用いられておらず、更に過去に触れたような依存症を起こすなど社会問題にもなった為に色々と厳しい目があるのが現状の様です。もっとも、それでも未だに興奮剤の使用で失格となるケースが多いようですが。
 なお、気管支拡張効果のあるエフェドリン等や、お茶などに含まれるカフェインも興奮作用がありますが、これらは一般に薬として用いられるケースもある為に一定濃度以下では許容されています。



 麻薬鎮痛剤に関しては痛みを取る為となっています。
 この為、競技で生じる肉体的苦痛を克服、あるいは苦痛による集中力の減少を抑制するような役割があります。もっとも、リストにあるようなヘロインなどはやはり耽溺性の問題もあり、やはり乱用のきっかけとなる可能性があると言えます。



 たんぱく質同化剤、ペプチドホルモンは後述するとして、β2作用薬について触れましょう。
 交感神経系の受容体は主に二系等あってαとβがあります。そのβでも心臓血管系を支配するβ1と、呼吸器系を支配するβ2があり、そのβ2を刺激し、気管支拡張作用がある薬剤がβ2作用薬で、一般に喘息の持病を持つ人が使うことが多いです。基本的にはエフェドリンなど興奮剤と同じようなものと言えるでしょう。一般的な治療薬であるサルブタモールなどは、持病を持つ人において吸入のみが認められ、それで一定の数値内に収まらないと失格です。
 このβ2作用薬は興奮剤としての作用の他、脂肪の燃焼を促進し、たんぱく質の分解を阻害する働きがあります。よって、筋肉の増強の働きをもたらす為にドーピングの禁止薬物として指定されています。
 もっとも、β2作用薬はβ1にも働き掛ける事が多く、その為に心臓血管系にも影響を与えて心拍数をいたずらに上昇させ、震えや心悸亢進作用をもたらす事となり、時として生命を危険にさらす事があります。



 β2作用薬とは逆にβ遮断剤と言うものもあります。
 これは上述の薬剤とは反対に働くものでして、心臓の収縮能力を抑えて心拍数の低下や有酸素能の低下をもたらします。医学的には高血圧や狭心症などの治療に用いられる薬剤です。つまり、運動に対して抑制的に働く事になります。
 では、スポーツ分野では? 運動能力が落ちるわけでして「こんなのを使うのか」と思われるかもしれませんが、呼吸数が低下し、手足の震えなどを抑える為に、特定の競技、例えば射撃やアーチェリーなどといった競技において照準をしやすくすると言うメリットがあります。
 無論、持久的な運動を要する競技では全く使用する意味がない為、そのような競技では検査対象外となります。

 利尿剤はかなり幅広いものです。
 基本的にはボクシングなど、体重による階級がある際に利尿効果によって体重を落とす、と言う手法の為に使われる他、更にはドーピングのチェックが尿検査によって行われる為、禁止薬物の早期排泄のために利尿剤を用いる事があります。
 もっとも、副作用による脱水症状や筋肉の減少と言うデメリットもありますが。

 隠ぺい剤は読んで字の如くでして、服用している禁止薬物の探知を阻害する為の薬剤です。
 これは様々な方法がありますが、一例を挙げるならばホルモン等のドーピングにおいては生体由来の物質を使われた際において、その物質の存在その物は問題にはならないため(生体由来の物質ですので)、一般に特定の物質との存在比で判定します(ドーピングしていればその比が正常な範囲からずれるため)。
 隠ぺい剤はその存在比を調節する為の薬剤も含まれています。


 そして、現在もっとも主流になっている物がたんぱく質同化剤です。
 これはどういう物かと言うと簡単に言えばホルモン剤でして、たんぱく質同化剤の代表的なものは男性ホルモンと言ったステロイドホルモンとその類似物質と言ったものがあります。これは男性ホルモンその物や類似物質、あるいは代謝によって男性ホルモンあるいはその類似物質に変わるものといった物でして、この数は極めて多数に上っています。
 その主な目的は男性ホルモンによる男性化、つまりは筋肉の増強に主眼が置かれています。



#専門注17α位に側鎖を繋ぐ事で脂溶性を増し、効果の継続時間が延ばせます。
#代謝の勉強をやっていれば分かる通り、無論残留時間も長くなりますが。

 一方ペプチドホルモンはたんぱく質同化剤と似ていますが少し方向が違いまして、例えばヒト成長ホルモン(hGH)、インスリン様成長因子(IGF-I)(ソマトメジンCとも)、前回のシドニーオリンピックでも注目されたエリスロポエチン(EPO)、インスリン、下垂体刺激ホルモン(LH)、排卵誘発剤等と言った物が代表的です。これらは役割がそれぞれで違い、EPOは赤血球の分化促進により持久能力を向上させ、他のものは大体は筋肉の増強と言う物に主眼が置かれています。
 どちらも身体能力の向上である、と言うくくりが出来ると思われます。
 上に挙げたたんぱく質同化ホルモンは昨今の主流で検査で判明する約半分となっています。そして、実際にこれらの物質の効果はかなりのもので、筋肉増強の場合なら実際にかなりの筋肉をつける事が出来る事が可能です。その一例としては、東ドイツの女子水泳選手の例で1年の間に10〜15kg増えた体重のほとんどが筋肉だったと言う話があります。
 このような効果から使う選手は多いようです。
#β作用薬、興奮剤などが次いで多いようです。

 なお、ドーピングの対象となる薬剤にはたくさんの違法薬剤や、医療分野で治療に使われている薬剤もあります。
 スポーツにおけるドーピングでは、通常これらの薬剤が医療目的の適正量の10倍、100倍と言った量で使われる事があります。当然効果も出ますが、これまでの話を見ていればどういう問題が起こるか、と言うのは予想が出来るかと思います。

 薬物の他にも、禁止されているドーピングの「方法」についての規定もあります。

禁止されるドーピング方法
方法主な効果
血液ドーピング赤血球数の増加による持久能力の向上
薬理学的・化学的・物理的不正操作ドーピングの隠ぺいにより、検査を通過させる方法。
遺伝子ドーピング特定の遺伝子を導入し、身体能力の向上をもたらす。

 血液ドーピングとは治療目的外で自分の血液、あるいは同種・異種の血液、またはそれに由来する赤血球製剤を使う事です。これにより、体内の赤血球数が増える為に持続能力が向上する事となります。もっともシンプルなのは自分の血液を900ml程度採取して冷凍しておき、4週間後に赤血球量が回復したころを見計らってその血液を再び注入すると言う方法で、効果は6週間前後続くようです。元々米軍が第二次大戦中に研究し、その後1960年代にスウェーデンで再度開発されて現在に至りますが、この方法そのものはソウル五輪から禁止されています。
 最近の血液ドーピングの主流はEPO(遺伝子組換え技術を応用して作る)でして、その他遺伝子組換えヘモグロビン、あるいはヘモグロビン製剤やカプセルと言ったものもこれに含まれます。
 薬理学的・化学的・物理的不正操作は色々と手法がありまして、ドーピングの隠ぺいの為に様々な手を打つ物です。例えば、一般的な検査は尿検査ですので、サンプルのすり替えや細工、あるいはホルモンの比率を変更するために薬剤を入れると言う手法があります(基本的には監視がつくので容易ではないですが)。
 この方法、ものすごい荒技もありましてドーピングを行った選手の膀胱から尿をとりだし、他人の(ドーピングしていない)尿を入れると言った物もあるようです。
 遺伝子ドーピングは最新の物と言えるでしょう。
 これは例えば筋肉増強を促す遺伝子を導入して筋力を上げる、と言った物です。これは遺伝子治療等の医療目的の技術より発展したもので、まだヒトでの臨床試験は行われていませんが、将来にはかなり問題になるだろうと予想されています。


 では、ドーピングはどうやって調べられるのか?
 これは一般的には尿検査によるものとなっています。血液検査などが理想的ですが、しかし宗教上やその他の諸問題を含む為に尿検査が一般的です。その手続きはかなり厳密になっていまして、IOCの規定では競技の上位三名と任意の選手が検査対象となり、通告書の同意にサインした上で顔写真入り(身代わり防止)の身分証明書を持って1時間以内に検査室へ出頭する事になっています。
 検査室も厳重なもので、他の施設から隔離されており、施錠できる様になっています。尿が簡単に出ない人もいる為、待合室はリラックスできる環境になっているとされ、ソフトドリンクが飲めるなどなっているようです。
 採尿はスタッフの監視の下で行われ(不正操作防止の為:やはり競技者にとっては苦痛らしい)て採尿コップに最低75mlを採り、その2/3は「A検体」、1/3を「B検体」として分けられてボトルに入れて封印・保存されます。採尿コップに残る数滴分はpH(変性の度合い)や比重(濃度)の検査に使われ、条件が合うまで何度でも採尿される事となります。検査終了後には、該当者は過去三日使用した薬剤の深刻や、必要な書類にサインをする事となります。
 なお、ドーピングの検査に関してはこれを拒否するとドーピングを行っていたと認める事と同じ扱いになり、記録の抹消と資格の剥奪が待っています。
 検体の方はIOCに公認されている検査機関に持ち込まれて検査されます。この検査機関は世界に31(2004年1月現在)あり、日本では唯一三菱化学ビーシーエル(旧三菱油化メディカルサイエンス)社がこれを行っています。
 検査機関に持ち込まれた検体は、基本的にはA検体が用いられて検査されます。B検体は陽性反応が見られた時の予備です。
 この検査は機械的なもので、8つのスクリーニングによって調べられます。基本的には化学系の研究室ではおなじみの方法でして、ガスクロマトグラフ(GC)を使って混合物から物質の単離を行い、その後質量分析(MS)などを行ってその物質の正体を調べると言う手法をとります。あまり詳しくやると専門的ですが、「たくさんの物質から一つずつに分け、その正体を調べる」と言う作業です。
 GCを使わないのはペプチド系のホルモンなどで、こちらはIMx(全自動免疫蛍光測定装置)といった、抗体確認検査法を用いるようです。これは抗原抗体反応を使った手法でして、ドーピング対象となる物質に反応する抗体(選択性が高く、対象となる物質以外にはあまりくっつかない)を作り、これと尿のサンプルを混ぜてどれだけ抗体と反応する物質があるかを調べるというものです。
 やや専門的ですが、ひとまず表にしておきます。

尿サンプルの調査
分類検出対象検査法備考
スクリーニング-1興奮剤 麻薬 β遮断薬などGC/NP未変化、遊離代謝物(窒素含有型)
スクリーニング-2興奮剤 麻薬GC/MS抱合体として検出される薬物
スクリーニング-3熱に不安定な物質HPLC現在実施せず
スクリーニング-4たんぱく質同化ステロイドGC/MSおよびGC/HRMS(SIM)
スクリーニング-5利尿剤などGC/MS(SIM)酸性物質の検出
スクリーニング-6テストステロン系物質GC/C/IRMS
スクリーニング-7β遮断薬 熱に不安定な物質GC/MS
スクリーニング-8ペプチド系ホルモンIMx
※いずれも前処理については触れていない。
※GC/NP:キャピラリーガスクロマトグラフ窒素リン検出器   GC/MS:ガスクロマトグラフ質量分析計
※GC/C/IRMS:炭素同位体比ガスクロマトグラフ質量分析計  HPLC:高速液体クロマトグラフィー
※IMx:全自動免疫蛍光測定装置

 さて、以上がドーピングの歴史・種類・検査法について簡単なものとなります。
 各個で話をするとかなりきりのない話になりますので、そういうものはまた別の機会になりますが.......では、こう言ったドーピングの問題の本質は何なのか? 現状はどうなっているのか? どういう問題があるのか?
 そういった事は残念ながら今回触れるにはあまりにも大きなものになりそうです。これらは次回に回そうと思います。

 そういう事で、残りは次回と言う事にしましょう......




 さて、今回の「からむこらむ」は如何だったでしょうか?
 まぁ、ひとまず色々とネタを考えていたんですが。「貧乏科学者列伝」とかヨタで考えたんですけど、ちょうどアテネオリンピックも開催されている事ですし、折角と言う事でドーピングの話題にしてみました。
 あまり大きく報道されていないんですけど、結構事前に検査に引っ掛かり、有力選手が出場できないと言う事態が起きてもいるようですし、またまん延している状況も有り取り上げてみましたが。
 取りあえず今回は分類などが主眼でしたけど。興味を持ってもらえればと思います。

 そういう事で、今回は以上ですが。
 次回は......この続きといきましょう。

 そう言うことで、今回は以上です。
 御感想、お待ちしていますm(__)m

 次回をお楽しみに.......

(2004/08/18公開)


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