からむこらむ
〜その216:風が吹いても〜


まず最初に......

 こんにちは。今年も後少しですが、皆様如何お過ごしでしょうか?
 気付けばもう2週間はおろか1週間ちょいと言うところまで来てしまいました。早い物ですが。

 さて、今回のお話ですが。
 久しぶりというか、4ヶ月ぶりの「からむこらむ」となりますが。まぁ、仕事が入るとこんなものでしょうけど(^^; ひとまず、久しぶりの話で考えるものもありましたが、ふと思い出すものもありましたのである病気の話をしておこうと思います。
 もしかしたら皆さんも関連するかも? と言う話ですがね。
 それでは「風が吹いても」の始まり始まり.......



 ここをご覧の方の年齢は果たしていくつかは分かりませんが。
 人によっては重要なテーマとして捉えているかもしれないものに「健康」と言うものがあると思います。もし、今ご覧の方が若ければ余りこれに関心はないやもしれず(精神的なものは興味あるかも知れませんが)、一方である程度年齢を重ねていった方は気にし始めている、あるいは現在気にしている人もいらっしゃるかと思います。
 ま、管理人は肝臓ぶっ壊していますので、流石に関心を持たざるを得ませんが。
#本当、あれだけは二度と勘弁して欲しい.......

 さて、病気も色々とありますが昨今先進国で問題になっている病気があります。
 形而上でも形而下でも「病気」は色々とあるでしょうが、「富める者」に特有の病気である、いわゆる「生活習慣病」と言う物は先進国でみられる代表でしょう。基本的に「贅沢病」と言う事になるかと思われますが、そのようなものの代表格に「糖尿病」といったものがあるかと思われます。そのような生活習慣病は血液検査で判明する事が多くあります。実際、ある程度年齢を重ねると血液検査で色々と調べる事となるでしょう。
 ところで、血液検査で皆さんが気にするのは何でしょうか?
 肝臓がアウトな管理人はGOTやGPTと言う項目が気になりますが。人によっては血中のグルコース濃度や中性脂肪など諸々が気になるでしょう......いわゆる糖尿病のリスクを測るのに使われる項目がいくつかありますが、それに関してです。「対策」と言う事で血液検査前の一週間で酒をやめるなんて人もいらっしゃるかと思いますが?
 しかし、中には「UA」と言う項目を気にしている方もいらっしゃると思います。7.0mg/dL以下が目安になっているこの項目、何かというと「尿酸(uric acid)」と呼ばれる物の量です。この項目が高いと.......? 真っ先に疑われるのは腎臓の機能でしょう。腎不全と言う可能性が出てくるので、腎臓が弱い方はこれは気にするべき項目の一つとなります。また、あるいは「痛風」と言う物にかかりやすくなります。
 実はこの「痛風」、糖尿病程ではありませんが典型的な生活習慣病の一つとして知られています。と言うより、糖尿病と痛風は生活習慣と関連する為か併発する事もある病気です。
 と言う事で、今回はこれに関する話をしてみたいと思います。


 痛風は古くから知られていた病気です。
 既にエーベルス・パピルスに、つまり紀元前1500年頃には記録がされているようでして、記録されている病気の中では「古参」の類いといえるでしょう。事実エジプトではミイラに痛風の痕跡がみられるケースが知られています。その後のギリシャ時代にはヒポクラテスがかかっていたとされ、アレキサンダー大王も痛風に悩まされたようです。
 その後栄華を極めたローマ時代の頃の記録にも大分残っておりまして、関係してプトレマイオス王朝の王達(クレオパトラの先祖ですな)などもかかっています。中世以降でもルイ十四世などと言った国王達やミケランジェロ、ダ・ヴィンチといった芸術家、ゲーテなどの文豪、ニュートンやダーウィンといった科学者などもかかっており、特に富裕層を中心にして比較的「一般的」な病気だったようです。  この痛風、「贅沢病」などと呼ばれる以上、富裕層にある人がかかる事が多く、金に飽かせての宴会続き、つまりレジャーはもちろん女(男?)をはべらせて云々。更には贅沢な食事に多量の酒と言った、まさに「贅沢」な暮らしを享受している人達にかかる事が知られていました。事実、1世紀に生きた『博物誌』で有名な大プリニウスの以来、「痛風は贅沢が増すにつれて多くなる」などと言われる様になります。
 つまり、総じて「美食」「大酒」と言う事が痛風を語る上でのキーワードとなっています。事実、ローマ時代以降も西洋では長い間この病気をおこす人は大分いたためにその記録はかなり残っており、美食・大酒の快楽を享受した富裕層では特にみられるようです。
 ま、痛風と美食・大酒、ひいては肥満との関係は現在でも言われている比較的「一般的」な通念だと思われますが。無論、定番である「ストレス」もこれに関わってくると言われています。

 日本での痛風はどうか?
 一般に語られる所では「約100年前から」と言う話が多いようです。つまり明治以降でして、江戸時代以前にはなかった、と言う説もあるようです。ルイス・フロイスも「日本には痛風がない」などと記録したと言われています。もっとも、これらはあくまでも「報告」と言う事から分かるものですが。
 ただ、個人的にはこの意見には「どうだろう?」と思う部分もあります。
 例えば平安時代。「美食」「大酒」は肥満と繋がると言う事は書きましたが、日本でもこの時代に一部の貴族はかなり肥満だった者がいまして、絵画、文章などに記録があります。例えば皆さん御存知「御堂関白」こと藤原道長。彼は栄華を極めた上に美食、大酒を楽しんだようで、実際に13世紀に描かれた藤原信実によると言われる「紫式部日記絵詞」に描かれている藤原の道長(四十代前後らしい)は結構立派に太っている。
 史実では道長は糖尿病だったと言われています。これは藤原実資の『小右記』の記述から言われていまして、五十代の頃から口渇を訴えるようになり、水をよく飲むようになったとあります(糖尿病の典型的な症状)。彼の糖尿病は宴会続きなどによる美食、大酒と言った事が関連している事は容易に推測出来るでしょう(ついでに、藤原氏は糖尿病にかかっている者が多いらしい)。そのことから痛風も併発している可能性がある。

 そんな時代に太った人間がいたのか? 道長が例外ではないのか?
 平安時代と言うとどうにも想像がつきにくいですが、一部の恵まれた人間では肥満がみられ、記録をみても「相撲人(すまいびと)」として相撲取りの記録がこの時代にはありますので太った人間は少数だったとは言えど確実にいたといえると思われます。
#当時の相撲人の代表格は藤原氏最盛期の10世紀後半から11世紀初頭の、一条天皇の頃に名を残す大井の光遠(おおいのみつとう)などがいますか。
#『今昔物語集』巻二十四には相撲人の記録がいくつかあり、光遠の妹の怪力ぶりの話などもあります。
 相撲取りでは、と言う事になるかも知れませんが、無論裕福な貴族でもそう言う人がいまして、道長以外にも肥満の貴族の記録が残っています。
 その一例となる人物の話をしましょう。ある種の笑い話として『今昔物語集』巻第二十八第二十三に「三条の中納言、水飯(すいはん)を食ひたる語(こと)」と言う話がありまして、10世紀半ばに生きた才人でもある「三条の中納言」こと藤原朝成(摂政である藤原伊尹と対立して不幸な死を迎えています)にまつわる話があります。この中納言は
 つまり太り過ぎて苦しく、立ち振る舞いが苦しい状態になったので医者を呼んだという事なのですが、これを診た医者は「冬は湯漬(ゆづけ)、夏は水漬にて御飯を食べましょう」とアドバイス(つまり「贅沢はやめなさい」と言う事)するという。
 ま、興味あるかたは読んでみると面白いんですが、この三条の中納言、この話を聞いてどうしたかというと「じゃぁ食べていく様子を見ていってくれ」と医者に言い、その目の前で大きな銀製の器に水飯を盛りつけて食べてお代わりし、しかも三寸ばかりの干し瓜十個に、鮨鮎三十個食って、と言う無茶苦茶な食事を見せつけることとなります。
 医者は「水飯だけでもこんなに食べちゃ更に太るぞ」と言って逃げて人に話したとか。その結果
 と締めくくられています。このような事を考えれば、朝成は立派な肥満だった事は間違いないといえます。更に当時の上位貴族の生活習慣上宴会は多く、権力争いに血眼になっていればストレスも相当なものでしょうからより肥満になりやすく生活習慣病にかかりやすかったとも言える。これを考えると「江戸時代より前にはなかった」とは言い切れないのではないか?
 もちろん、確かな証拠は余りないようですが。ただ「ない」と切るのはどうかとも思います。
統合失調症白粉の鉛が「狐憑き」といった「呪詛」に関連したと考えれば、痛風の激痛もそれに関連させられてしまった可能性もあるとも思いますが。

 なお、現代日本では1960年以降より増えていまして、現在は数十万人がかかっていると言われています。飽食の時代故に、と言う事かも知れませんが.......ちなみに、現代の相撲取りでは糖尿病と同じく、痛風で苦しむ人が結構いるようです(ある種の職業病とも言える)。

 では、この痛風の症状はどうなのか?
 痛風の症状のスタートは見事なまでに共通しています。最初の発症は足の親指の付け根の関節に、真夜中(就寝中)に激痛が走る事から始まります。この痛みは強烈とされていまして、「飛び上がるほど」の痛さ。歩くなどはもってのほか、と言う痛みでして、これが数日間続くと言われています。これが発作の最初です。
 その後、対策をとらずに放置すると再度この発作が出てきて繰り返す事となり、やがて痛みは足の親指からくるぶし、足の甲、膝と拡大し、各所の関節が痛み出すようになります。この痛みは経験者によればまさに「二度と味わいたくない」痛みと口をそろえて言うものとなっています。
 その痛みはまさに「風が吹いても痛い」と言う事で「痛風」と命名されることとなります。
 この強烈な関節痛は食生活や社会生活などが大きく関連している事、そして男性での発症率が女性よりも圧倒的に高く、昔の書物では男性は女性の発症率の10倍と書かれるなど顕著に違う事は昔から知られていたようです。昨今のデータでは女性の発症率は男性100に対して1〜2程度となっているのが特徴的です。
#ホルモンの関係で差があるようです。
#なお、発症に関しては「徐々に体温があがって熱くなり」と言う状態である程度予測がつくようになるとか<経験者談

 痛風はきわめて激しい痛みを伴うため、その治療薬の探索は重要な課題でした。
 民間レベルでは有象無象含めておそらく色々とあったとは思いますが、6〜7世紀にはハーモダクチルス(hermdactylus)が有効であると言う情報が出てくるようになります。もっとも、誰もその薬の正体が分からなかったのですが、調べられるにつれてヒマラヤ産のユリ科コルチカム属の植物であり、コルキクム・ルテウム(Colchicum luteum)の球根である事が分かってきます。これはよく知られるイヌサフラン(Colchicum autumnale)と呼ばれる植物の関連植物であることもまた分かってきます。
 イヌサフランは欧州、北アフリカ原産のユリ科コルチカム属の植物でして、現在では主に観賞用として栽培されている球根植物です。夏に植えれば秋ごろにサフランによく似た花を咲かせるために「サフラン」の名が入っていますが、サフランはアヤメ科クロッカス属のものであるために植物学的には全く異なる物となっています。
 ま、検索すれば簡単にその画像を観る事ができるでしょう(便利なものです)。
 イヌサフラン自体は2500年以上前のエジプトですでに知られていまして、当時からすでに鎮痛効果を期待されて薬として使われており、リウマチなどの治療に用いられたようです。もっとも有毒性が高い為に使い方は難しい事も知られており、1世紀にはローマのディオスコリデス(アヘンマンドレークの話でも出てきています)はこの危険性について触れて、利用に際しての注意を促しています。結局それから1500年以上もの間この「危険性」が言われ続けて痛風治療には少なくとも大々的に使われる事はなかったようです。
 一方、ハーモダクチルスの方は発見以降痛風治療に使われていました。これはビザンチンやアラブの医師達がよく用いたようです。

 ところで両者は似ている、と言う事でイヌサフランを痛風治療に試したものはいなかったのか?
 その毒性の為か、非常に長い間それを試したものはほとんどいなかったようです。ですのでイヌサフランが使われるようになるのは18世紀頃、ウィーンの病院でアントン・フォス・ストルク男爵が生の球根の安全な用法を確立するまで待つ事となります。そしてそれ以降、イヌサフランは痛風の一般的な治療薬として使われるようになります。
 イヌサフランの利用が広まると、フランスやイギリスではこの球根をぶどう酒の中に浸した「家伝薬」が数種類販売され、中でもフランスの「デュソンの水薬(eau medicinale d'Husson)」は当時の「傑作」となったようです。これは18世紀フランスの専売薬でして、大陸中、あるいは当時敵であったイギリスにおいてもこの薬は売れたと言われ、皮肉な事に当時のイギリスの名士達(学士院会長バンクス卿など)はよく「お世話になった」とされています。
 デュソンの水薬の用法は二回分が一つの瓶に入っており、必要に応じ4〜6時間に一回反復服用するようになっていたようです。
 ま、流石に「敵に」となってはなんですのでイギリスも色々と、「ウィルソンのチンキ」とか同様のものを作ったようです。実際イギリスも普通に使うようになった為か1809年版『ロンドン薬局方』にはすでにイヌサフランの用法が記載されています。

 さて、このような過程を経て痛風治療薬として使われる事になったイヌサフランですが。
 この中の何の成分が有効であるのか? 当然、科学が発達するに伴ってこの疑問が出てくる事になります。これは化学が隆盛していた1820年には有効成分コルヒチン(colchicine)が分離され、比較的広まってから早く分離出来たといえるでしょう(モルヒネと同時期です)。一方、構造は1945年に初めて理解される事となります。



 専門的には天然ではチロシンからできるドーパミンと、フェニルアラニンからできる桂皮酸から合成されます。首を捻る部分があるかも知れませんけど......合成経路は1960〜70年代に研究されています。
 このコルヒチンは種子、花、球根などに0.2〜1.8%含まれてまして、痛風に有効ですが毒性が高く、用量を間違えると12〜24時間(数時間と言う話もありますが)をおいて痙攣を起こして意識不明となり、呼吸が止まるという暗殺に向きそうな成分となっています。この時解剖をすると、核細胞膜が分厚くなったり臓器がうっ血したりと特徴的なようです。
 なお、常用すると免疫機能が低下し、慢性的な下痢や脱毛に襲われるなどの症状を呈するようです。

 では、何故このような危険なコルヒチンが有効なのか? これは最初に痛風のメカニズムを説明する必要があるでしょう。
 痛風にかかると行われるものに食事制限があります。これの対象は総じて「おいしいもの」が多いのですが、その様な食事には「プリン体」と呼ばれるのがあり、これが痛風に関して非常に問題になります。
 「プリン体」とは何か? これはDNAを構成する核酸  「A」「T」「G」「C」で表されるものがありますが、その中の「A」こと「アデノシン」を構成する塩基「アデニン」と「G」こと「グアノシン」を構成する塩基「グアニン」が代表的な例でしょうか。これらは構造中に「プリン」と呼ばれる物質を元とした構造を持っています。実際にはプリンの構造を持つのはこれだけではなく、かつお節のうま味成分として有名な5'-イノシン酸(IMP)や何度か名前のでている生体内のエネルギー通貨ことATP、あるいは細胞の活性に関連しているcAMP(その153その193など)、お茶などに含まれるカフェインなどにもこれらプリン体は含まれています。
 そして、これら物質は生体内でやがて排泄されるのですが、その方法が尿酸(uric acid)へと代謝していき、尿に溶かして捨てると言う方法をとっています。



 この尿酸は血液に溶かされて腎臓を経由して尿として捨てられる事になるのですが、しかし血液中に溶け切れる尿酸の量には限界があり、増え過ぎるとやがて尿酸はナトリウムなどと塩(えん)を作って結晶化し、これが関節などにたまる事になる。この異常が起こると免疫系から異物と判断されて白血球がこの部位にやって来る事となり、その為に関節で炎症が発生してしまうこととなります。
 これはある意味リウマチと似た状態となります。この為、関節では炎症による激しい痛みが起こる事となる。
 一応、高等な霊長類(ヒトなど)以外の霊長類ではウリカーゼ(uricase)と言う酵素を持っていまして、これが尿酸をもっと水に溶けやすいアラントインと言う物質に変えるのですが(図参照)、ヒトや両生類、鳥、爬虫類などはこれを持っていません。これを持っていれば......などと思うものもあるのですがね。
#ここは専門分野で結構あれこれとある部分だったりしますので、学生さんは調べましょう。肝臓における窒素代謝の一つです。
#個人的にはここら辺の分野では生物化学の講義でのPRPPとフィードバック機構の話を思い出しますが。

 こう言った事により、プリン体が多い食事を重ねる(=肥満になりやすい)と痛風になりやすくなる。この事からプリン体の多い食事(豆なども多いことが知られます)は制限される事となります。ちなみに、アルコール飲料の成分中にもプリン体が多い上、アルコールの分解で尿酸が生じると言う事から飲酒も制限される事となります。
 ついでに言えば、腎臓に障害があれば尿酸の排泄が上手くいきませんので、やはり腎臓障害を持つ人は痛風に警戒が必要という事になります。
 一応、「水をよく飲みなさい」と言われるのは、尿の回数を増やしてこの尿酸の排泄を活発にするためでして、そう言う意味ではトイレとは仲が良くなりますが、激痛を避けたければ行うべき事になるでしょう。実際、2リットル以上の水分摂取が推奨されるようです。

 ここまで説明したら、後はコルヒチンの役割は何か、と言う事になる。
 実はコルヒチンの作用は完全なものは分かっていません。しかし、一応推測は立てられていまして、現在のところコルヒチンはたまった尿酸塩に対して働く白血球の働きを抑制(専門的には白血球の尿酸貪食作用及び貪食好中球の脱顆粒を抑制)し、この為に炎症を抑制するという事が言われています。
 つまり、直接的に尿酸値を下げると言うものではなく、痛みの原因を除去すると言う事で「薬」として働いているという事になります。実際、同じ様に炎症が問題になるリウマチの薬にもなっています。
#炎症を抑制する事から、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDS)のインドメタシンといった抗炎症剤も類似の物となります(ただしNSAIDSであるアスピリンは悪化させるらしい)。

 なお、現在では痛風の薬は他にいくつかあります。
 代表的なものの一つとして、ここでは「アロプリノール」を挙げておきましょう。



 この薬剤は、キサンチンから尿酸を作る酵素であるキサンチンオキシダーゼを阻害し、これによって尿酸を作らせず、尿中の尿酸濃度を下げるという、尿酸をコントロールする薬剤です。
 現在ではそう言った薬剤と、節制、軽度の運動、水を飲む事などが一般的な痛風治療となっています。
 ま、もしかかった方がいらっしゃればお早めに.......対策は早いほど良いですから。


 ところで、コルヒチンですが毒性があると書きました。
 実はコルヒチンは現在は医療分野よりはある意味農業分野で活躍している薬剤です。と言うのも、実はこの毒性がきわめて重要な役割を果たしているからとなっています。

 コルヒチンの毒性は実は細胞分裂の際に発揮されます。
 これは余り詳しい事を書くととても収まり切りませんので簡単にしか書けませんが。細胞分裂には「有糸分裂」と呼ばれる分裂があります。これは細胞の「メインの設計図」がある核の分裂に関連していまして、細胞が分裂する前に事前に核の染色体の数を二倍に増やしておきます(分裂後に同じ数だけ持たせる為)。この後には紡錘糸と言うものが生じましてそれぞれの染色体が引っ張られて、等量となるように分けられ、それぞれ同じ数の染色体がやがて新しい細胞の核となる事になる。
 コルヒチンはこの有糸分裂を途中で止めてしまう作用があります(専門注:細胞骨格をなす微小管(チューブリン)を阻害する)。この為に毒性を発揮し、その量を間違えて人を死に追いやる事ができる。同時に、細胞分裂の阻害で死に至らしめるには時間が掛かる為、飲んでもすぐには効果を発揮しないという事になる。
 この効果を期待して、ガン細胞の増殖防止に使えるのではないかと試験された事もあるのですが、副作用の問題から現在は諦められています。

 しかし、これは使い方を変えるとメリットになりました。
 何か、と言いますと意図的に染色体異常を起こす事が可能となる。つまり細胞の染色体が通常の二倍になったまま細胞分裂を邪魔すると言う事から染色体異常をコルヒチンを使って誘発し、これでどのような影響を与えるのか、と言う研究に使える。
 実は、これが農業において重要となります。
 少し詳しく説明しましょう......ちと難しい部分なんですが。通常、ヒトなどの生物(植物含む)は二倍体、つまり染色体数が2nと言う形の物が多くあります。ヒトでは性染色体を含めれば23本の染色体がペアになっており、合計「2n=46」本の染色体を持ちます。つまり「2n」で表される二倍体です(全ての生物が二倍体ではありません、念の為)。
 さて、スイカも二倍体の生物なのですが、発芽後にコルヒチンを処理してやると四倍体(4n)になります。この四倍体の状態で雌しべに二倍体の(つまり正常の)花粉を受粉させると三倍体を持つ種子ができる事となります。
 ところがこの種子、育てていくと実はなるのですが実は種子を作る事ができなくなります。これは通常とは異なる三倍体の為、種子を作る為のプロセス(減数分裂と言う)に異常を来たしているためです。その結果、このスイカはどうなるか、と言うと「実はなるのに種子はできない」。
 いわゆる「種無しスイカ」と言う物ができ上がります。
 果実関係の育種ではこのような利用法がありまして、現在はある意味農業分野での、こちらの方が有名な部分があるようです。
 面白いものだと思いますがね。


 さて、結構長くなりましたが。
 以上が痛風と治療薬の、そしてその治療薬の別の側面についての簡単な話になります。まぁ、宴会シーズンですし色々とこれに悩まされると言う人もいるかと思いますし。また、農業とは普通にはなかなか繋がらない部分でもありますので、こう言うのも面白いかと思いますがね。
 興味を持ってもらえれば、と思います。
 ま、飽食の時代ですので痛風はおそらくこれから悩まされる人もいるとも思いますので.......患者は増加傾向だそうですから。どうやって防ぐか、と言うような事は一応書いておきました。血液検査で心配になった方はがんばって減らしましょうね。


 それではこの話はこれで以上、と言う事で......




 さて、今回の「からむこらむ」は如何だったでしょうか?
 いやぁ、久しぶりでして色々と感覚がとんでいましたけど(^^; まぁ久しぶりですので「?」と言うような部分があれば御勘弁を(^^; 内容的に間違っている部分があれば指摘して欲しいですがね。
 まぁ、いつか触れようと思っていた話なんで少しはベースがあったんですけど。取りあえず、久しぶりにはそう言う話が良いわけでして、一応今回触れる事としました。
 ひとまず、最近は増えている病気ですので気にしたほうが良いかと思いますがね......腎臓機能が気になる方もそうでしょうけど。ま、機構に興味がある方はある程度納得はして頂けるかなぁ、と思いますが。同時に、その治療薬の意外な側面にも興味を持ってもらえればと思います。
 痛風治療薬が種無しスイカに。普通は繋がりませんからねぇ。

 そういう事で、今回は以上ですが。
 次回は取りあえず与太的と言うか、科学史メインかな? そう言う話を考えています。もっとも「からむこらむ」の事、単純な切り方はしない予定です。まぁ「人生様々だよなぁ」と思ってもらえればと思う話を考えています。
 後は形になるかですがね(^^;

 そう言うことで、今回は以上です。
 御感想、お待ちしていますm(__)m

 次回をお楽しみに.......

(2004/12/22公開)


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